4-21 共闘 — Corporation
「黒い幽霊たちよ、彷徨える魂よ。今こそここに集え!今こそ汝らの力を示す時!不埒なる簒奪者を、魂を持たない機械の獣を狩り尽くせ!かかれ!」
拡声器を持つヤスダの言葉に黒衣をまとった政府直属の精鋭部隊、黒い幽霊の五つの影が国道を南下する機械の軍団に襲いかかった。いくら数で優勢を誇るとは言え、銃器を持たない下層民たちでは機械の獣たちに太刀打ちできるはずもない。戦闘のエキスパートの力がどうしても必要だ。
「ったく、調子に乗っているよな、あのおっさん」
肩に虎の字を刻んだ黒衣を纏う男がYipsilonに絡み付いた機械の獣を巨大な爪で切り裂きながら、銃弾を防ぐ盾役となった大柄の幽霊に語る。
「よせ。あの男も教え子を失った犠牲者だ。それに下層民の士気を高めるために敢えて道化となっているんだ。自己を犠牲にすることを厭わない、尊敬に値する人物だ」
牛の印を背中に刻んだ幽霊は振り返りもせずに語る。目の前でペンギン型の機械獣の投げた爆発物が炸裂するが、男はびくともしない。
「確かにそうかもな。おらよ!」
絡み付く機械獣を駆逐し終わると、Yipsilonの小柄で丸い身体が動き始める。コクピットの少年と少女は笑顔で手を振るとそのまま走っていく。彼らの行き先には折れかけの塔。そこに何がいるか、もう誰もが知っている。
獣の群れの中心では、竜の印を黒衣の頭部に刻んだ幽霊が躍動していた。腕の一振りで機械の獣たちはガラクタの山となり、一蹴りで巨大な鉄の象を吹き飛ばした。空中では竜の幽霊に呼応してスラスタを吹かしながら爪に酉の印を刻んだ幽霊が急降下と急上昇を繰り返す。一蹴りで機械獣の集団に穴が開き、二蹴りでいくつものガラクタの破片が舞い散る。
「やれやれ、こいつを助けることに意味なんてあるのかい?私の前任者の仇だろ?こいつ」
足の爪に引っ掛けるようにして機械獣の集団の中から拾い上げたのはぼろぼろになったユウジ。限界まで戦い続けたユウジの身体は機械獣たちの残骸と区別がつかない。完全に復帰することはもうないのだろう。酉の幽霊は興味無さげにユウジを蹴り飛ばすとそのまま機械獣たちとの戯れに戻っていく。
下層民たちは両手を掲げ、歓声を上げて幽霊たちの戦闘を見守る。圧倒的な戦闘力を誇る黒い幽霊たち。悪い噂も立ったその幽霊たちが自分たちのために戦っている。その事実はその場にいた人たちを熱狂させる。引き抜かれた機械の骨格とケーブルが、撒き散らされたオイルが、下層民を湧かせる。
ドン、という衝撃が空気を震わせた。
その場に居合わせた誰もが天上を見上げる。視線の先では巨大な流れ星が明滅し、その姿を消す。同時に統率のとれた動きを見せていた機械獣たちの動きが乱れ始める。ヴィルタールシステムの主衛星が消えたことで機械獣たちの制御システムもダウンした。無作為な動きで暴れ回る機械獣たちはもはや幽霊たちの敵ではない。黒い幽霊たちは機械獣を掃討し出す。都市を覆っていた混乱は収束を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます