3-25 血の狂騒 — Frenzy of the blood
「邪魔をするな、と言いたいところだが、ちょうどいい」
ユウジは新手の幽霊を振り返る。遭難者救助用の四枚羽のドローンは、先ほどまでユウジが相手していた幽霊を収容すると飛び立っていった。ユウジの膂力なら撃墜は容易いが、目の前のこの『幽霊』がそうはさせてくれそうにない。
「お前だな?我々を狙っているのは」
「十二人、だよな?あんたら。今日だけでも何人か狩った。残りはあんた入れてもあと少しみたいだぜ?」
「知らないのか?幽霊は殺すことなんて出来ないんだ。もともといない存在だからな」
軽口を叩くユウジの前から幽霊が消える。
相手を見失って一瞬、ユウジの動きが止まる。
腹に強い衝撃。宙を飛んだ身体は橋脚に叩き付けられる。
「もうお前が誰かを殺すことはない。死ぬのはお前で最後だ」
すぐ間近で声がする。慌てて身を翻すと芸術のような踵落しが頬を掠め、そのまま橋脚のコンクリートを削りとる。
—やるじゃねえか。
声を出そうと思ってユウジは思い留まる。『幽霊』の黒衣に赤い筋が表れている。
「『血の狂騒』か」
流れる電位によって生体金属が一時的に赤く変色することからそう呼ばれる現象。ユウジの生体組織や黒衣を構成する強化生体金属は、流れる生体電位に強く反応する。通常でもかなりの力を発揮するが、神経伝達が高まればさらにその力は飛躍的に向上する。
集中力や強い意思が引き金となって引き出される力に上限は無い、と聞いたことがある。
瞬間、幽霊の姿が消える。
頬を殴られユウジの身体は宙に舞う。首がもげるかというほどの衝撃。
—まずい。
咄嗟に身体を丸めるが、幽霊は容赦なく拳や蹴りをユウジの身体に叩き付ける。一撃が重い。ユウジの身体はみるみる痣だらけになり、そのまま川原に吹き飛ばされる。
ユウジは身体を起こして幽霊から距離を取る。一瞬で距離を詰める幽霊。その一撃を受け止め、拳を脇腹に叩き込む。幽霊は吹き飛ばされながらも体勢を整え、踏みとどまる。
「そいつはお前だけのもんじゃねえ」
ユウジの目が赤く輝く。一蹴りで幽霊の懐に飛び込むと顎目掛けて拳を振るう。幽霊はその拳をスウェーでかわし、そのままサマーソルトを見舞う。奇麗に決まるが浅い。ユウジはそのまま足を掴むと無造作に放り投げる。空中で体勢を整えた幽霊に、ユウジは拳を振るう。
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