4-14 苛立ち — Frustration

 弾丸を装填する。狙いをつける。引き金を引く。

 ユーリはひたすらに同じ動作を繰り返す。百年以上もの間、一日も欠かすことなく繰り返してきた動作は体に染みついていて、意識せずとも弾丸は放たれ、狙い過たずに自律型機械の動きを止めていく。その動きは時を刻む時計の振り子や、天をかける星々の動きと同じで、精密で誤りがない。

 ユーリは着実に自律型機械を葬っていくが、都内に放たれた自律型機械の数は一向に減らない。

 

 ドン。


 その瞬間、確かに東京の街で何かが弾けた。そしてその直後、都内は完全なる修羅場と化した。

 あらゆるタイプの自律型機械が人を襲い始めていた。働き蟻は群衆に向けて突撃し、自律運転型の磁気浮上車ホバーは人ごみに向けて猛スピードで疾走し出す。悲鳴と怒号が都内を席巻し、恐怖と憎悪が街を支配していく。


「ソラ…」


 ユーリはひたすらに引き金を引き続ける。レイヴンを支える腕は度重なる衝撃に肉が割け骨が折れ、その度にすさまじい速度で再生を繰り返す。痛みは感じるが、もはや気にはならない。自分は一本の木。この都市を見下ろす人知を超えた大木。しかしそれでも大木に寄り添ってくれていた小鳥—ソラのことが頭から離れなかった。

 ソラはユウジと共にいる。ならばまず間違いなく身体は無事だ。しかし心の方は?周囲の人間と激しく同調し感覚を共有するソラが、これほどの悲嘆と憎悪の嵐に包まれたらどうなる?

 ユーリにはわからなかった。ただ言えることは一つだけ。一刻でも一瞬でも早く、この惨劇の、悲劇の幕を閉じなければならない。


「マカロワ!なんとかしろ!天才の名が泣くぞ!」


 珍しく苛立つユーリがインカム越しに呼んだのは、長き年月を共にしてきた相棒の名だった。

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