3-18 乙女 — Maiden innocence

—私はなぜここにいるのだろう。


 レイカは自問自答する。上気した肌が窓から吹き込む夜風に冷やされていく。隣の男はよく寝ている。隙だらけの寝顔にこちらが戸惑ってしまう。

 薄暗いアパートの一室。長年住んだこの部屋にいついた男はこの男で二人目。一人目の男の所にはもう戻れない。誇り高いあの男は自分のことを決して許さないだろう。

 隣に眠る男は自分の敵だったはずだ。しかしいつの間にかこの男に心を奪われていた。


 何に魅了されたのだろう。


 彼にとっても、最初は遊びだったはず。それがいつの間にか真摯な思いへと変わっていた。ベッドの中で聞いた生い立ち。馬鹿正直で自信過剰な性格。見た目とは裏腹な、不器用な優しさ。どれも凍てついていた私の心を溶かすには十分だった。しかしそれでもナギほどの魅力は感じない。


 自分に対してどれだけ真摯に向き合ってくれているか。結局はそれなのだろう。


 自分を慕う多くの人間の一人として私と向き合ってきたナギと、私のことだけを見つめてくれたユウジ。いかに強いカリスマを持っていても、真摯にただ一人の私を見つめてくれる瞳の前では無力だ。

—まるで乙女だ。

 我ながら恥ずかしくなる。アームドスーツで疾走し、何人もの命を奪ってきた私がこんなことで。いまごろナギの隣には他の誰かがいるのだろう。しかしそのことに嫉妬心を掻き立てられることもない。

 そのことが嬉しい反面、あの男を思い悲しくもさせる。

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