Epilogue 流星 — Shootingstar

E. 流星 — Shootingstar

「どうせ楽な仕事じゃないんだろ?」


 疾走するアームドスーツの中でトワは呟く。その呟きに答えが返ってくるが、敢えてトワは無視する。お説教なんて聞きたくない。年齢は同じくらいなのに、あいつはいつまでも自分を子供扱いする。


 大陸西海岸から内陸部に入った岩と砂だけの世界。かつての大国の面影はひび割れた舗装道路にしか見ることが出来ない。ILAMSと協調する空輸部隊の無人輸送機から降り立ったのが二日前。それから丸二日、睡眠のためのわずかな休憩を除いてトワはアームドスーツ α-Gooseを走らせ続けている。

 その名の通り二足歩行のガチョウのような姿形をしたアームドスーツは長距離走行に特化していて驚くほど燃費がいい。ガチョウの翼の部分には無数の小型ガソリンタンク。機械式アームで支えられたガソリンタンクは、戦闘時には投擲用の簡易武器にもなる。無線給電システムの行き届いた東京都内と違ってエネルギーの無駄遣いが許されないこの土地では、太陽光とガソリンで効率的に走ることの出来るこのアームドスーツは重宝される。


「このあたりのはずだけど—」


 緯度と経度を確認し、アイグラスのナビゲーションシステムを起動させて目的地のマーカーを周囲の画像に重ねる。ビンゴ。一・五キロメートル先に古びたガソリンスタンド=偽装された地下施設への入り口。トワは無精髭の生えた顎をさすると、砂埃にまみれたα-Gooseを走らせる。

 大国主導の世界のあり方を否定し独立国家の樹立を宣言した狂者が機械の軍団を率いてこの地の地下施設に立てこもっているという情報は、ILAMSの諜報部隊が傍受した。自らを希代のテロリスト、薙澤零司の生まれ変わりと称するその男は髪を銀色に染め、世界の変革をテロリズムというありきたりの手法で達成しようとしている。

 諜報部隊を率いる一方、希代のエンジニアでもあるナナミ・オースティンはナノメートルサイズの諜報素子を開発して実戦に投入。以来、情報戦で他国の上を行くことになった日本は、外務大臣の沢木創を中心に諸外国に日本の存在感を誇示し有利な外交交渉を展開。ラプラスと共に政策決定用高機能AI MIKOTOの主機能まで失われ、一時はどうなることかと囁かれた日本の国政の立て直しに成功している。


『トワ、待って』


 目標である古びたガソリンスタンドにあと五百メートルと迫ったところでトワの頭の中に声が響く。トワは声に従ってアームドスーツを停止させる。光学迷彩を展開しているアームドスーツがそこにはいるはずだ。トワのα-Gooseも光学迷彩を展開し、あらかじめ決めておいた波長に同期させる。

 いた。

 トワの機体のすぐ近くに、もう一機のGoose型アームドスーツ。β-Gooseだ。


『久しぶりね。寂しかった?』

「久しぶり、はないだろ。別れてからたった二日だ」

『いつも一緒なんだから二日だって長いよね。私は寂しかったよ?トワは寂しくなかったの?』


 隠したって無駄だ。ソラにはトワの心の声は全て筒抜け。能力なんて使うまでもない。顔と声でばれてしまう。


「ああ、寂しかったよ」


 途端にソラの満面の笑みがアイグラスに飛び込んでくる。十代後半に差し掛かったソラは日に日に美しくなっていく。隠しようもなくトワはソラにぞっこんだ。そしてソラも自分のことを憎からず思ってくれている。それだけでトワの毎日は充実している。

 ソラがアームドスーツに乗りたいと言った時、トワは猛反対した。当然だ。ソラを危険に巻き込むことなんて避けたいに決まっている。でもソラは言った。自分がアームドスーツに乗りたいのは、敵を殺したいからじゃない。ユーリやユウジ、トワが戦闘を通じて感じたことを、自分も感じたいからだ、と。その言葉にトワは渋々折れた。でも約束させた。自分からは絶対に離れるな、と。


「もうすぐ時間だ。ソラ、下がって」


 二機のGooseが後退して間もなく、轟音と共にガソリンスタンドの床板が吹き飛んだ。降り注ぐ砂礫の雨の向こうで床下から飛び出したのは強襲型のアームドスーツ ε-Hammer。巨大な腕部とくびれた胴、がっしりとした脚部を持つ不格好な機体は、見た目によらない俊敏さで駆け回り、開いた床下に銃弾をばらまく。


『予定通りだ。Drafarosのメインユニットは破壊した。Sentinel-Iの大群が来る。逃げるぞ』


 逃げ場が無いことを悟った地下機械帝国の狂者—ドラファロスは自身の脳をMIKOTO級の高性能AIにコピーし、その直後にガソリンを被って自身に火を放った。その火を起動源として高性能AI−Drafarosは起動し、世界を機械で支配する道を邁進し始めた。それが二日前。そして潜伏していたILAMSのアームドスーツ ε-Hammerが行動を開始したのが三時間前。Drafarosのメインユニットを破壊したのならばここに用はない。撤収を急ぐべきだ。

 ε-Hammmerを追って、巨大な丸い眼に無数の触手を生やした機械が地下から次々と現れる。直径三メートルほどもあるその機体は、触手を鞭のようにしならせてε-Hammerに迫る。


『識別コードは?なんで止まらないの?』


 ソラの声がインカムから流れる。ソラの肉声を聞いたのは実に久しぶりだ。


『いくら肉体が機械だからって、主人を破壊した者を味方と認識するほどバカじゃないってことだろうよ!』


 ε-Hammerの操縦者が応える。ハスキーボイスに赤い髪。白い肌のところどころから見え隠れする鋼鉄の身体。アームドスーツの操縦の腕前はトワに勝るとも劣らない。師匠の愛したその操縦者にトワは敬意を忘れない。彼女もまた、ユウジやユーリと同じように真正面から時代にぶつかり、その代償として棺のような細胞培養槽で数年を過ごし、自前の肉体を失うことになった。

 ε-Hammerが振り向き様にその巨大な腕を振るう。回避シーケンスが間に合わず、腕の一撃をまともに受けた巨大な目玉−Sentinel-Iは数十メートルも吹き飛んで岩場に打ち当たり、割れた卵のように砕ける。怯んだSentinel-Iの群れに二匹のGooseが銃弾を浴びせかける。爆煙と砂埃を隠れ蓑に、三機のアームドスーツは岩場を疾走する。


『だいぶチームっぽくなってきたじゃないか。え?』


 アイグラスに浮かぶレイカの顔にトワは頷き返す。三十路をとうに超えたレイカは溌剌としている。今を生き、楽しむ。愛した男の生き方をそのまま辿っている。

 轟音と共に、疾走する三機の前の地面が吹き飛ぶ。穴の開いた地面に退路を断たれた三機が振り向くと、巨大な機械がガソリンスタンドの床全面を破って現れようとしていた。

 体長はゆうに二十メートルはある。黒色のボディに爛々と輝く赤い眼。ゴリラのような体型のその機械は、四足のまま疾走すると、銃弾を浴びて動かなくなったSentinel-Iを持ち上げトワたちに投げつける。


『避けろ!』


 投げつけられた巨大な目玉をε-Hammerの腕が弾く。飛び散った破片が散弾のように三機のアームドスーツを襲い、あっというまに機体が傷だらけになる。レイカが手を出さなければトワとソラはあの目玉に潰されていただろう。


「なんだよあいつ!」

『ゲッゲッゲッ。あいつがDrafaros、Drafarooooos!さ!手強いぜぃぃぃ?高性能AIと一体化したゼノニウム合金製のアームドスーツ。殲滅力だけならあのZycosをも凌ぐ超ド級のアームドスーツさぁ!生半可な攻撃なんて効きゃしない。逃げるが勝ちだな!』

『メインユニットは破壊したはずだろ!?バックアップがあったのか!?』

『待っていろ!いま援軍を送るから!』


 憎らしいジェスターの声にレイカとヤスダの声が重なる。

 公安を辞めたヤスダはILAMSの門を叩き、トワたちの後方支援を引き受けてくれた。派手さは無いが堅実でいつもトワとソラのことを気遣ってくれるヤスダは、二人に父親というものの存在を思い起こさせる。

 ヤスダの言葉が終わらないうちに、雲一つなかった砂漠の陽が陰る。見上げた先に光学迷彩を解除した巨大ヘリが姿を現す。ローターは回っているのに音一つしない。逆位相の音をぶつけることで発生音を打ち消すアクティブサウンドキャンセラーを搭載した無音の戦闘ヘリ−サイレントレイヴン。航続距離を遥かに伸ばしたブラックウィドウの後継機には敬意を込めてあの女の相棒の名前がつけられている。

 そのヘリから一つの影が飛び降りると、今まさにDrafarosの手から投げられようとしていた目玉—Sentinel-Iを一蹴りで粉々に砕く。そのままDrafarosの腕と肩でステップを踏むと、左頬に強烈な蹴り。一撃で赤く輝く左目を砕くと、その影はふわりとDrafarosの頭に着地する。踊るような美しい動きにソラもトワも、レイカでさえも、見とれてしまう。

 二枚の翼と、巨大な爪。頭部を覆う黒色のマスクには酉の一字。


「相手は世界の脅威になり得る狂信者たち。つまりは紛うことなき悪。どうやら今日の私はヒーローになれそうね。ああヒーローじゃない、ヒロインだったわ。うっかりしている」


 機械の力を借りた声で呟くと、黒衣をまとった幽霊ーいや、治安維持部隊第一小隊のメンバーであるカエデ・マツカワは、Drafarosの腕をかいくぐってふわりと飛翔すると、惚れ惚れするほど美しい飛び蹴りをDrafarosの足に叩き込む。地上二十メートルから黒衣の力を持って叩き込まれた蹴りは、それでもDrafarosの脚部を破壊するにはいたらない。ゼノニウム合金製の高機能AI搭載型アームドスーツはしばらく動きを止めると、マツカワを踏みつけようと足を振り下ろす。


「だめよ、そんなに暴れては」


 カエデは軽々とDrafarosの足をかわす。

 空を切ったDrafarosの足は、そのまま砂礫の大地を踏み抜き、地面深くに足を埋めてしまう。身動きの取れなくなったDrafarosは巨体をゆすり、そのまま轟音と共にうつぶせに倒れ伏す。

 倒れ臥したDrafarosの頭部を翼を広げた黒衣が踏みしだく。

 黒衣を身体の一部とすることでカエデ・マツカワは蘇った。黒衣を纏った公安の幽霊たち。その中でも異質なロストナンバー、それがカエデだ。幽霊の中の幽霊となったカエデに帰る場所はなく、組織間の調整の結果としてILAMSの所属となった。かつて死闘を繰り広げ、自分を死の淵に追いやったEX-Humanの拠点。しかしカエデは葛藤を抱えることも無く、その正義を愛する心を拠り所に今日も戦場に立ち続けている。

 蹴り付けられていたDrafarosがゆっくりと身体を起こす。カエデの蹴りなど、蚊に刺された程度、と言わんばかりに、その動きにはいささかの衰えも無い。離脱しようとしたカエデをその太い腕で捕まえると、そのままトワたち目掛けて投げつける。

「—!」

 弾丸のような速度で投げつけられたカエデは、ε-Hammerの腕に片手をついてかろうじて軌道を変え、二機のGooseの間の地面に叩き付けられる。地面に叩き付けられた衝撃で優雅な酉の翼はへし折れている。あの翼では、もう空を飛ぶことはできない。


『カエデ—!』

『ギギギ。残念、黒衣は傷を負っても、中の人間はあの程度じゃ傷つかない。だが—やばいぜぇぇぇ?』


 アイグラスの向こう、継ぎ接ぎだらけの人形であるジェスターの仕草に、トワはDrafarosをズームアップする。Drafarosの残された片方の眼が爛々と輝き、全身が金色に輝き出している。


『なにあれ—』


 ソラの言葉とともに、Drafarosの周囲の空気がパチパチと音を立てて爆ぜ、全身から青白い光が周囲に迸り出している。


「稲妻だ—」


 Drafaros本体と周囲の大気の間に大きな電位差が出来始めている。その電位差を埋めるべく巨大な稲妻がDrafarosの巨体から何本も走りだす。


『まずい、距離をとれ!』


 レイカの絶叫にDrafarosが両腕を地面に叩き付ける音が重なる。Drafarosを中心に地面が陥没し、三機のアームドスーツと一体の黒衣はその中に飲み込まれる。

 トワたちが落ち込んだのは深さは十メートル、直径三十メートルほどの窪地のような場所。襲撃者を捉える「檻」または「罠」。おそらく周囲にはこのような穴がたくさん用意されているのだろう。周囲は丁寧に削られていて三機のアームドスーツと、飛行能力を失った黒衣はどうやっても抜け出せそうにない。

 這い上がれる場所を探して三機のアームドスーツは疾走する。ε-Hammerの肩に担がれたカエデはまだ意識が戻らない。そんなアームドスーツを見逃すはずも無く、Drafarosが秀でた額を撫でてトワたちに向き直る。


『きゃ!』


 Drafarosが力任せに拳を地面に叩き付け、砕けた岩をソラに投げつける。すんでのところでε-Hammerの巨大な腕が岩を叩き割るが、岩の重量に押されてバランスを崩す。その隙を見逃さず、肉薄したDrafarosがε-Hammerの両腕を掴み、蓄積された電力を一気に解放する。


『—!』


 レイカの声にならない悲鳴。意識を取り戻したカエデと、トワのα-Gooseがε-Hammerの二つのアームユニットを解放する。両腕を失ったレイカのアームドスーツがバランスを崩したところをソラのβ-Gooseが拾い上げ、そのまま走りだす。


「レイカ!」


 返事は無い。切り離されたε-Hammerの両腕は地面に転がり、黒煙を上げて燻っている。力を解放したDrafarosは動きこそ鈍っているが、その力はいささかも衰えず、アームドスーツに岩を投げつけ出す。


「ちくしょう!」


 トワは涙を零しながらコンソールに拳を叩きつける。

 逃げ場は無い。たかだか高さ十メートルの壁。それでもGooseやHammerには登ることは出来ない。カエデの翼も損傷している。TorgielやRavenで空を自由に飛べた頃が懐かしい。無線給電システムのないこの砂礫の上では出来ることは限られている。応戦手段も無い。さっきから銃は撃ち続けているが、Drafarosの巨体には傷一つ与えられていない。サイレントレイヴンもとっくの昔に姿を消している。賢明だ。Drafarosの前では格好の的になるだけだ。

 投げつけられた岩が窪地の壁面に当たって砕け、その欠片がβ-Gooseの脚部を掠める。高速で飛び散る岩の欠片は、それだけでβ-Gooseを転倒させる。


「ソラ!」


 β-Gooseの前に立ちはだかったα-GooseにDrafarosが迫る。Drafarosの巨躯はその存在だけでトワを威圧し、Zycosをも凌駕する獰猛さを見せつける。最高のAI+狂者の心+ゼノニウム合金製のボディ。考えうる最悪の組み合わせで構成された兵器。


『トワ、に…げて』


 脳内に流れ込む言葉を無視してトワは応戦する。しかし放たれた銃弾にも、体表面で発火したガソリンタンクにもDrafarosは動きを止めない。そのままα-Gooseを掴み上げると、腕を、足を、一本ずつへし折っていく。まるでガチョウを解体するように。

 α-Gooseのコクピットで、トワは失われていくGooseの手足を呆然と見つめていた。コクピットから逃げることも出来ずに、トワはDrafarosの獰猛な横顔を見つめる。一つだけ残されたその赤い眼が、嘲笑うようにトワを見つめる。暴虐の限りを尽くそうという狂者の心が、その瞳の輝きとなってトワへと伝わる。

「ちきしょう—」

 あの二人がいてくれれば—。

 女々しいとはわかっていても、トワはそう思わざるを得ない。自分の不甲斐なさ、力の無さを痛感するたびに。

 Drafarosの巨大な腕がコクピットの全方位モニターを引きはがす。ひしゃげたフレームにケーブルが絡まり、火花が散る。外界の乾いた空気が入り込む。割れたモニタの向こうに見えるのは実物の世界。Drafarosの漆黒の巨体と隻眼。そしてその向こう、透き通るような青い空に一筋の光。


 —光?


 次の瞬間、轟音と衝撃に大地が震えた。

 絶叫するDrafaros。見ると残されていた目のあった箇所がえぐれ、黒い液体—おそらくオイルだろう—が溢れ出ている。Drafarosはα-Gooseの残骸を投げ捨てると、空に向かって吠え、近くの岩をめちゃくちゃに空に向かって投げ上げ出す。

 コクピットを降りたソラは、投げ捨てられたα-Gooseに走り寄る。


「トワ!大丈夫?」

「あ…ああ、奇跡だ。今日はついている」

「ついている?」

「久しぶりにソラの声が聞けた」


 甘い言葉を交わす間もなく、二人は手分けしてカエデとレイカを助け出すと窪地の隅に身を潜める。Drafarosはまだ岩を投げ上げている。空に一体何がいるのか、ここからでは全くわからない。光学迷彩を纏ったサイレントレイヴンだろうか。しかしヤスダからは何の連絡も無い。


 ドン。


 再びの衝撃とともにDrafarosの巨体が傾ぎ、右腕が力を失ってだらりとさがる。見ると右腕の付け根、腕の稼働のために開かれた、ゼノニウム合金装甲のわずかな隙間から火が吹き出ている。


「ねえ、あれって—」


 ソラの言葉にいくつもの衝撃音が重なる。音にあわせて巨体を誇るDrafarosの身体が跳ね、力を失っていく。


「ああ、間違いない」


 最後の一撃は、トワの眼にもはっきりと見えた。天から降り注いだ光の矢が、Drafarosの胸部の赤い輝きを撃ち抜く。大地を震わせる断末魔の咆哮。耳を押さえるトワとソラの前で、Drafarosの身体から輝きが消え、完全に沈黙する。その身体は巨大な偶像のように窪地の真ん中で屹立したまま天空を見上げている。

 天空を一筋の光が駆け抜けていく。

 衛星ユリウス。

 大気圏で燃え尽きたヴィルタールシステムの主衛星の代わりとして軌道上に投入されたのは半年ほど前のこと。衛星ユリウスの開発にはILAMSも関わっていたが、詳細はトワたちにも知らされていない。しかしトワたちは確信する。あそこには彼女たちがいる。

 動きを止めたDrafarosの胸部には深々と巨大な杭が刺さっている。見ようによってはステッキにも見えるその巨大な杭は、超高度を誇るゼノニウム合金製の装甲を軽々と突き破っている。あの杭もゼノニウム合金かあるいはそれ以上の強度を誇る金属で作られているに違いない。


『無事か!?お前たち!』


 アイグラスのインカムからヤスダの心のこもった問いかけが聞こえ、同時に空の一角から巨大な無音ヘリ—サイレントレイヴンが姿を現す。

 三機のアームドスーツは大破し、レイカとカエデは重傷だ。だけどこれだけは言える。


「ああ、まだなんとか生きているよ」


 安堵の声。その声を聞いて、トワたちも自然と笑顔になる。自分たちのことを、本当に心配してくれている人たちがいる。


「ピックアップを頼む。そして、マカロワに繋いでくれ。聞きたいことがあるんだ」


 見上げた先には透き通る青空。隣には愛する人と、心を許せる仲間。

—できすぎだ。

 川の向こうにあると言われていたものを自分は手に入れた。そしてその手に入れたものとこの先も生きていく。

 天を駆け抜けた光—流星が地平線の向こうに消えていく。そして地平線の向こうに消える瞬間、一つ大きく瞬く。その瞬きは、トワとそこにいる全員の背中を押してくれていた。

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Tokyo 21XX — 塔の上の住人たち 日出 隆 @takataka2

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