2-9 トワ ー Towa - Eternal

「トワ、だとさ」

『なんだそれ』

「あの子の名前。ソラにトワだ。語呂がいいし相性もよさそうだ」

『あの坊主、名前を貰った途端に元気になって『ソラを守れるように強くなりたいから鍛えてくれ』とか抜かしてたぞ。あいつ嬢ちゃんに完全にのぼせてるな。あとでからかってやる』


 ユーリのアイグラスの中でユウジはけらけらと笑う。


「意識せずにトワを振り回しているところが怖いな。ソラは大人になったら面倒な女になりそうだ」

『男を振り回す、天然の悪女か?どこかの誰かさんみたいだ』


 沈黙。アイグラス越しのユーリの刺すような視線に、狭い装甲車のシートでユウジは降参とばかりに両手を上げる。


『そう怒るなよ。俺たちだって似たようなもんだろ?ユーリにユウジだ。生い立ちだって二人と大差ない。家族なしだ。』

「似てなどいない。それに私は男を振り回したことなんてない。いいからジェスターに替われ」

『知らないのは本人だけ、ってね』


 最後の言葉をユーリに聞こえないようにつぶやくと、ユウジは膝の上のジェスターにバトンを渡す。


「進展があったって?」

『ボマーキッズの育成施設が特定出来た。トワのお手柄だな。突入は三時間後。ユウジと私は強襲部隊に同行。ユーリは上空から援護。嬢ちゃんはユーリの隣につけ』

「私も連れて行ってくれるの?」


 ソラが駆け寄ってくる。


『一人で暴走されるより、誰かの隣にいてくれた方が安心ってだけだ』


 ジェスターの言葉にソラはいーっと指で口を横に開く。

 祈りの塔の上層階、ユーリの私室の下に位置する作戦会議室には量子コンピューターや立体映像投影機ホログラフィックディスプレイが所狭しと並んでいる。中央の丸テーブルには廃村の位置する栃木県山間部の立体映像が映し出され、ユウジとジェスターの位置を示す青い光点の位置が刻々と変わっていく。

「関東圏内でも廃棄された集落は珍しくない。都心まで三時間。テロリストの前線基地だ」

 部屋の端で衛星回線の確保に没頭していたマカロワが顔を上げる。回線を”洗浄”するためのワクチンプログラムが効果を上げ始め、ハッキングAIメビウスにずたずたにされた公衆回線パブリックラインが一時的に復旧している。今回投与した強化ワクチンが効果を発揮する時間は、予想では六時間。その時間を過ぎるとメビウスはワクチンへの耐性を持ち、公衆回線は使えなくなる。しかし六時間という時間は、任務遂行には十分な時間だ。

 回線を通じてデスク上に低軌道上の偵察衛星が捉えた高精細立体映像がオンタイムで表示される。ワクチンプログラムが効いている間はデスク上に本物と寸分違わぬ戦場が広がり、情報検索エンジンとのリンクも思いのままだ。


「トワの靴の中に木の葉が一枚、残されていた。木の成育状態から土壌状態や日照時間を割り出すことで場所の特定できた。九十九・八七パーセント。間違いない」

「潰すのか?」

「根こそぎ、だ」


 ユーリは軽く頷くと部屋を出る。ソラがその後を追う。屋上では自律航行型ヘリが二人を待っている。狩りの時間が始まる。

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