第8話
「場外! 場外!」
と言いながら、審判が止めた。
「両者、こちらに」
審判が、中央に呼び寄せた。
「ちっ、油断したよ」
リーダーが、吐き捨てるように言ったと思ったら、目の色が変わった。
(やばい、怒らせてしまった…………)
(油断していたとは言え、さっきの不意打ちに近い状態での攻撃は、もう通用しないだろう)
(しかし、私にはこれしかない)
(さあ、どうしよう…………)
「始め!」
考えている暇もないまま、審判の合図がかかった!
私は、また突進して拳を叩き込もうとしたがーーーー。
すべてかわされた。
やっぱりフルコンタクト空手の有段者に、同じ手は通用しなかった。
「うわっ!」
とっさにギリギリ避けたが、リーダーの上段廻し蹴りが頭をかすめた。
(鋭くて速い! しかもキレがある)
(いまの蹴りが当たっていたら…………)
間髪いれず、下段廻し蹴りが飛んできた!
「痛っ!!!」
(何だ! この痛みは?!)
(寸止め空手に下段廻し蹴りはないので、防御方法が分からないし避け切れない…………)
容赦なく下段廻し蹴りを蹴り込んでくるリーダーの顔が、にやけている。
(くそーーーー! 何も出来ない…………)
バシーン!!!
下段廻し蹴りに気を取られていたら、上段廻し蹴りを顔面に喰らってしまった!
倒れこそしなかったがよろめいた。
「技ありーーーー!」
審判の声が響き渡った。
「おぉぉぉぉ!」
ギャラリー達が、どよめいた。
(うん? 何だ? この赤いものは? 鼻血だ!!!)
(親父にも蹴られた事ないのに!)
下段、中段、上段と巧みに蹴り技を繰り出し、突きとのコンビネーション。
怒涛の猛攻撃は続き、もうリーダーの独壇場。
ボコボコにされて、顔面をガードするだけで精一杯だった。
まるで公開処刑、それでも審判は止めない。
(やばい、本当にやばい、まともに喧嘩もした事がなかったから…………)
(寸止め空手は防具を付けているし、直接身体に当てないから…………)
(ダイレクトに、こんなに身体に痛みを感じたのは生まれて初めてだから…………)
(痛すぎて意識が薄れていくーーーー)
限界が訪れようとしたその時!
「出たーーーー! カマキリ拳法!」
ギャラリーの一人が叫んだ。
私は、無意識のうちに拳を鎌の形に変えて片足で立っていた。
「シャーーーーッ!!!」
大声で威嚇したら、リーダーが少し怯んだ。
その瞬間、俊敏に身体が動いた!
「跳んだーーーー!」
「回ったーーーー!」
「当たったーーーー!」
ギャラリー達が、解説口調で叫んだ。
私は、渾身の力を振り絞り、器械体操仕込みの前方宙返り蹴りを放っていた。
崩れ落ちたリーダーに、ギャラリー達が駆け寄った。
しかし、一人だけ私に近づいてきた者がいた。
「おめぇ、つえぇなぁ、おめぇには喧嘩売らんべ」
ニヒルで目付きの悪い者が、それだけ言い残し立ち去って行った。
聞くところに寄ると、ニヒルで目付きの悪い者は、数百人を束ねる暴走族の総長だったらしい。
まぁ、他人に興味がないのでどうでも良い事だが。
ちなみに、この組み手の後、カマキリ拳法の“使い手”からーーーー。
カマキリ拳法の“達人”と呼ばれるようになり、一目置かれる存在になってしまった。
良いのやら悪いのやら…………。
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