第33話
ここ二、三日寝つきが悪い…………。
私だけだと思っていたら、仲間達もだった。
特に、いつも独り言を言っている者の目の下のクマが酷い。
まるで、メイクをしているかのように。
しかし、そんな私達の個人的な事情とは関係なくデパートでのキャンペーン活動は続く。
丁度、本日三ヶ所目の百貨店でのショーが終わった時、数人の取り巻きを引き連れて村長が、キャンペーン活動の様子を見にやってきた。
「頑張ってくれてるな!」
そう言って財布を取り出し、お札を数えてーーーー。
「これで旨いものでも食べなさい」
三十万円以上はあったかな。
キャンペーンのスタッフとメンバーの五人で山分けをする事にした。
そして、本日の活動が終わったらすぐにホテルに戻って、村長から貰ったお金を握りしめて夜の街に繰り出した。
まず、向かったのは回らない寿司屋!
アワビやイクラ、大トロにウニ、のどくろなど高級なネタを次々に握って貰った。
お腹一杯食べても、お金の心配はいらなかった。
次に向かったのは、お洒落なショットバー。
カッコつけてバーテンダーに、今夜の私達にピッタリなカクテルを作って欲しいとオーダーをしてみた。
そして、五人それぞれに洒落の利いたカクテルが振る舞われた。
気分を良くした私は、一度やってみたかった事をやってみた。
カウンターで独りで飲んでいたスレンダー美女にーーーー。
「あちらのお客様から」
とバーテンダーからカクテルを渡して貰った。
スレンダー美女は、ニッコリと微笑んでくれた。
私も微笑み返そうとしたらーーーー。
彼氏らしき男が現れて、スレンダー美女の隣に座りギロっと睨んできた。
流石に、屈強な五人組の私達に喧嘩は売ってこなかったが、悪いのは私の方なので彼氏にもカクテルをご馳走してショットパーを出た。
柄にもない事をするものではないなぁと少し反省しつつ、おねえちゃんのいるお店に向かった。
高級ドレスを身にまとい綺麗に着飾ったおねえちゃん達が、お酒を作ってくれてーーーー。
アクション俳優の苦労話を聞いてくれるのだ。
正に至福のひとときであった。
気持ち良く酔っ払ていたら、つけまつ毛の埴輪顔のおねえちゃんがーーーー。
「ねぇ、バク転出来るの?」
と私に言ってきたのでーーーー。
「そんなの朝飯前だよ!」
と言ったらーーーー。
「やって! やって! 見たい!」
「でも、ここだと狭いから無理よね…………」
その言葉にカチン! ときた私はーーーー。
「見てな!」
テーブルを端の方に寄せて、スペースを広くしようとするつけまつ毛の埴輪顔のおねえちゃんにーーーー。
「その必要はないよ! アクション俳優を舐めて貰ったら困る!」
私は立ち上がり、京劇や雑技団が良くやる足の位置に手を付いて行う通称“その場バク転”を三回連続披露した。
「キャーー! 凄い!!!」
黄色い歓声を上げて喜ぶ、つけまつ毛の埴輪顔のおねえちゃん。
そして、アンコールと言ってきた。
私は、ふと思った。
普段、ショーでバク転をして客席を盛り上げてお金を貰っているのにーーーー。
今は、店でバク転をしておねえちゃんを喜ばせてお金を払っている…………。
単純に矛盾を感じた。
冷静に考えれば考える程、馬鹿馬鹿しく思えて腹が立ってきた。
私は、感じた事をありのまま仲間達に耳打ちをして、場の雰囲気を壊さないように店を出た。
この件以来、おねえちゃんのいるお店に、行かなくなったのは言うまでもない…………。
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