第53話
私は、一日に五回行われるショーとショーの間の休憩時間を利用して気づかれないように、、プチトマト姫に近づいた。
そして、プチトマト姫の着ぐるみを脱ぐタイミングを見計らった。
途中、他のキャラクターの中に入っているダンサーに、怪しまれて声を掛けられたり、話し込まれたりして邪魔をされたので諦めようとしたのだが、今度いつ遭遇出来るか分からないので、このチャスを逃す訳にはいかないと思い、必死でその場を取り繕って誤魔化しながら粘った。
その甲斐あって、遂に目撃する事に成功した!!!
都市伝説のダンサーの正体とはーーーー。
白髪交じりのボサボサ頭で、虚ろな目をした無精髭の小柄な中年男だった。
私は、腰を抜かす位に驚いた!
人を見かけで判断してはいけないのは、重々承知の上だがーーーー。
あんなに可愛らしいプチトマト姫の中身が…………。
何だ! このギネス級のギャップは!!!
腰を抜かしている暇はなく、都市伝説のダンサーがトイレに向かったので私もついていった。
私は、白々しく都市伝説のダンサーの横に並び用を足した。
すると、お互い小便器から少し離れた状態で用を足す癖があるみたいで、一物とパンツが丸見えになっていた。
「あっ!」
「あっ!」
そして、お互い同じ声を出して顔を見合わせた!
パンツの色とタイプが同じ!!!
「いやーーーー、ショーに出演する時は、いつもこの赤い勝負パンツなんだよね…………」
と都市伝説のダンサーは、ボリボリと頭を掻き照れながら言った。
続いて私もこう言った。
「実は私もなのです…………」
これがキッカケになり、都市伝説のダンサーと意気投合した!
とりあえず、ショーが終わったら飲みに行く約束を交わした。
そして、ショーを終えた私は待ち合わせ場所の居酒屋へと向かった。
居酒屋に着くと、先に着いていた都市伝説のダンサーは真っ赤な顔をして、すでに出来上がっていた。
そして、私の姿を見つけるなりーーーー。
「おーーーーい! こっちだよ!」
と手招きして席まで案内してくれた。
「とりあえず、生中でいいよな!」
と注文してくれたのは良いのだが、駆けつけ三杯だと言い出して乾杯と同時に一気飲みをさせられた。
流石に生中を三杯一気飲みするとふわっとする。
ちなみに、都市伝説のダンサーは、カルアミルクを飲んでいた。
この部分だけは、プチトマト姫らしい。
しかし、私が到着するまでに何杯飲んだのかは知らないが、無精髭にカルアミルクが付きまくって、口の周りがドロドロになっていた。
そして、いきなり項垂れ管を巻きはじめた。
「おい! 聞いてくれるか!」
「勿論です!」
「俺さ、こんな仕事してるじゃん…………」
「こんなって! 凄く立派な仕事じゃないですか!」
「いや、違うんだよ」
「何が違うのですか?」
「この仕事って親兄弟や親戚は勿論の事、友人や恋人にも言えないんだよ」
「えっ! どう言う事ですか?」
「世界規模のテーマパークともなると、キャラクターの中に入っている事を口外しては駄目なんだ」
「初耳なのですけど」
「このベジタブルランドは、そこら辺は徹底しているんだよ」
「確かに、色々規定が細かくて厳しい所がありますからね」
「そうだろ! 如何なる理由があろうと口外しませんって、一筆書かされるんだよ」
「だから当然、この仕事の事を誰にも言えないので、アルバイトに行ってくると行って家を出るんだ、親にはいい年こいてフリーターだと思われているし、変わり者扱いされてるよ」
「世界のベジタブルランドを回っている時は、何て言っているのですか?」
「海外のボランティア活動を手伝いに行ってくると言ってるよ」
「そんな理由で大丈夫なのですか?」
「今の所、バレてないけどな」
「その内、バレるのじゃないですか?」
「いや、その心配はないよ、もう諦められているから、そこまで詮索して来ないし」
「…………」
私は、府に落ちなかった!
世界中の子供達に夢を与えている仕事をしているのに、親兄弟にはフリーターだと思われ変人扱いをされていて、嫌みを言われ諦められているなんて…………。
こんな不条理な事がありますか!!!
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