第54話

都市伝説のダンサーの愚痴は止まらない…………。


「それに年も年だし、身体も年々動かなくなってくるし、そろそろ引退しようかなと思ってな」


「引退してどうするのですか?」


「家の家業を継いで、親孝行でもしてやろうかなって柄にもない事を考えてるよ」


「確かに、あれだけのキレッキレッのダンスのレベルは、一生出来るものではないですからね」


「俺の事、都市伝説になってるんだろ?」


「はい! なっています!」


「だから、その都市伝説を継続させたいので俺の代わりを探しているんだけど、なかなか見つからないんだよ」


「当たり前ですよ! レベルが高過ぎるからですよ!」


「それに、実は若い頃にダンスの世界大会でチャンピオンになった経歴があるから、本部の上層部にも納得して貰える逸材じゃないといけないからな」


「では、尚更ですよ!」


(ん? 待てよ、確か顔が怖くて背が低いからと言う理由で、オーディションを落とされた先輩もダンスの世界レベルの大会で、優勝経験があると言っていたな……)


(しかも、背格好も良く似ているのでイケるかも!)


「まだまだ老体に鞭を打って、無理をして頑張らないと駄目かな」


「いや、その必要はないかも知れませんよ」


「それ、どう言う事だ?」


「私に、心当たりのある人物がいますから」


「本当か?」


「本当です! 今度紹介しますよ」


「そうか!それは有難い!」


安心した都市伝説のダンサーは、愚痴を全部吐き出して気分が良かったのか飲み代を奢ってくれた。


そして、また飲む約束を交わして別れた。


私は、アパートに帰り早速、顔が怖い背の低い先輩にコンタクトを取り、今日都市伝説のダンサーと話した経緯を伝えた。


顔が怖い背の低い先輩は、願ってもいないチャンスだから、是非ともやらせて欲しいと言ってきた。


ただ、一つ条件があると。


その条件とは、副業でお見合いパーティーの司会をしているのだが、人手不足なので手伝ってくれればいいと。


そんな事で良ければ喜んでやりますよ!


と伝えて交渉は成立した!!!


それから、顔が怖い背の低い先輩に呼び出され、お見合いパーティーの司会のノウハウをレクチャーされた。


時給は二千五百円!


うん、悪くない金額だ。


レクチャーされてすぐに、本番を迎えた。


場所は、有名ホテルの会議室を借りて、参加する男性には様々な条件があり、参加料は五千円。


その条件を基に参加女性を集める。


ちなみに、女性の参加料は無料。


今回私が、担当したお見合いパーティーの男性の条件は、年収二千万円以上でした。


受付で収入証明書をチェックする訳ではなく、あくまでも自己申告制なので正直、怪しい人も沢山いた。


女性も集まりが悪いと参加する男性も少なくなるので、大半がこちらで用意したサクラなのであった。


売り上げは、男性の参加料金だけなので参加人数によって左右されてしまう。


従って、仕込みで何組かカップルも成立させる。


そうやって男性の参加意欲を掻き立てる。


しかし、中には全てお見通しの常連さんが数人いて、おねえちゃんのいる店で飲むよりも安くつくし、あわよくば本当にカップル成立する可能性もあるので、参加していると言う人もいた。


その常連さんは、毎回変わる条件を全てクリアしている訳ではないだろうが、そこは売り上げになるので追及しない事になっていた。


それに、こちら側もサクラや仕込みを用意しているので、お互い様と言う事で暗黙の了解なのであった。


まあ、人によっては向き不向きはあるでしょうが、私にとってはこんなに楽な仕事は、今までに経験した事がなかった。


だってスポーツトレーナーをはじめ、アクション俳優やパレードダンサーなど身体を使う仕事ばかりしてきたので、言い方は悪いけど口先だけでお金が貰えたのは初めてだったので…………。

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