第5話

私は、エレベーターで七階に昇った。


そして、七〇三号室の部屋の中に入り荷物を置いた。


「ふーーーー 疲れた」


「何だ? この疲れ方は?」


ただの移動疲れだけでは無さそうだが…………。


とりあえず、部屋の中を確認する事にした。


テレビもある、冷蔵庫もある、ベッドもある、ユニットバスまである。


しかも、間接照明で広さも八畳間位あるし、まるでビジネスホテルのような感じであった。


それもそのはず、ビジネスホテルを改装して寮にしたらしい。


勝手に年期の入った風呂なしの狭い木造アパートを想像していたので、テンションが上がった。


私は、移動の疲れを溜めたままジャージに着替えてロビーへと向かった。


「すみません、遅くなりました」


「大丈夫よ、それよりさっきの補足なんだけど」


管理人さんが、嬉しそうに言った瞬間。


「すみません、バスが到着しました!」


唐突に運転手らしき方が、ロビーに入ってきたと思ったらーーーー。


「おはようございます!」


どこからともなく、口々に挨拶をしながら人が集まってきた。


「皆、おはよう!」


管理人さんが、元気良く挨拶を返した。


「さあ、大地君も皆と一緒にバスに乗って」


「あっはい」


管理人さんに言われるがままバスに乗った。


しかし、何とも派手でユニークなバスだこと。


寮から約三十分程、バスに揺られて到着した。


そう、ここが就職先の原始時代村!


原始時代をモチーフにしたテーマパークなのであった。


ここで私は、原始人に扮してアクションショーをするのが主な仕事なのでした。


とは言え、アクションやお芝居は、ずぶの素人なのでバックステージにある道場で、訓練をしなければならなかった。


私は、バスから降りる人達について行って道場まで辿り着いた。


道場の中には、学校の体育の授業で使用していたマットが所狭しと敷き詰められていた。


「おはようございます!」


皆が口々に挨拶をしたので、私も紛れて挨拶をした。


「皆! ここに整列!」


それこそ体育の先生のような方が、指示を出してきた。


「はい!!!」


流石にアクションスターを目指している人達だ!


とても元気な返事とキビキビとした行動。


「よし! 今日から加わる仲間を紹介する」


「大地、前に!」


「では、皆に自己紹介してくれ」


私は、体育の先生のような方に促されるまま自己紹介をした。


「大地直樹です! 宜しくお願いします!」


すると、皆が拍手をして快く迎え入れてくれた。


「俺は、アクション講師だ! 宜しく!」


「それとな大地! 皆は仲間でもあるがライバルでもある、負けないように頑張るのだぞ!」


「………… はいっ!!」


少し戸惑ったが、空気を読んで元気な返事をする事にした。


「よし! 分からない事があれば俺か仲間に聞くように!」


「では、ウォーミングアップの十キロマラソン!」


「よーい! スタート!」


こうして、移動の疲れを癒す暇もなく、いきなりアクション俳優への道が始まった。

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