第4話

「今まで本当にお世話になりました」


オーナーに辞める旨を伝えた。


意外にすんなりと辞める事が出来たので、少し寂しく感じた。


案外、引き止めてくれると思っていた自分が恥ずかしい。


ただ、いつでも戻っておいでと言われたのが、唯一の救いであった。


さぁ! 気持ちを切り替えて参りましょう!


ジムの会員さんや友人達に挨拶を済ませた後ーーーー。


私は、夜行バスに乗り新天地に向かった。


眠ろうとしても頭の中では、走馬灯の様にこれまでの人生が何回もフラッシュバックした。


結局、一睡も出来ないまま目的地に到着した。


「おーい! こっち! こっち! こっちだよ!」


誰かが手を振って呼んでいる。


私は、足早に駆け寄った。


「おはよう! 管理人です」


大柄でぽっちゃりした女性が挨拶をしてきた。


私も挨拶を返そうとしたらーーーー。


「大地君ね、宜しく!」


「はい、これ鍵だから失くさないでよ」


「部屋は、七〇三号室だから荷物を置いたら、動きやすい服装に着替えてロビーに来てくれる」


「それから下水道工事中だから、まだトイレは使えないの」


「あと部屋を出る時は、消灯忘れないでね」


「それで、洗濯機と乾燥機は屋上にあるから」


「共同だから、順番に仲良く使うように」


「えーと、娯楽室と食堂は2階で大浴場は地下」


「門限は特に無いけど、常識の範囲でね」


「車持ってたら、前の駐車場使っていいから」


「寮の周りは民家だから、夜は静かにするように」


「これから重要な事を言うからメモ取っておいて」


「そこの角の鰻屋の鰻玉丼が美味しいのよ、肝吸いも付いているし」


「あそこの交差点にあるスーパーの唐揚げも最高よ」


「斜め前のタバコ屋に肉まんが売っているし」


「駅前の居酒屋のポテトフライのボリュームも凄いの」


「国道沿いにあるラーメン屋の大盛は、ニンニクたっぷりで食べきれないから気を付けて」


「そのラーメン屋の隣の回転寿司のうどんが、その隣の蕎麦屋のうどんより美味しいのよ」


「そのまた隣のお好み焼き屋さんの焼きそばは、イマイチだったかな」


「あっ! この焼きそばの情報は、どうでもいいか」


「あっはははーーーー あぁぁ可笑しい」


「それから、何だっけ、えーーーーと」


管理人さんの説明は、有難いのだけど…………。


「とりあえず、荷物置いてきます!」


私は、遮るように言い放った。


「あっそうね…………」


何か言い足りない顔をする管理人さんだったが.ーーーー。


何だ? この解放感は…………。

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