第74話

私と弟子のコンビも様になり、リピーターのお客様も定着し集客も安定してきた。


すると、弟子にファンクラブのようなものが発足した。


ルックスも良く芸達者で愛想も良い上に、どんなお客様にも神対応。


エンターテイナーの鏡のような存在。


それに加えて練習熱心で、常に新しいネタ作りにも邁進している。


見習わなくては…………。


新作のネタを弟子と考案している時が、一番楽しいし勉強にもなる。


発想豊かな弟子のお陰で新作のネタが、バンバン産声をあげる。


もう、アシスタントの域を超えている!


私が教えたアクロバットも、持ち前の運動神経の良さで覚えも早くすぐに出来るようになるし。


二人でアクロバットをしながらの登場は、非常にお客様のウケが良い。


アクロバティックで軽快なトークと絶妙なお客様イジリに加えた大道芸イリュージョン!


正にエンターテイメントの集大成かもと、錯覚を起こしてしまいそうな完成度の高さとお客様の良反応。


評判が評判を呼んで、遠方からのお客様も来られるようになった事が本当に有難い。


ちなみに、ファンレターは弟子の方が遥かに多い…………。


それでも、弟子は私を師匠と呼んで立ててくれる。


弟子の鏡である。


そんな弟子の姿を見て毎日一緒に、同じ目標に向かって長い時間を共に過ごすと、いつしか恋愛感情を抱いている自分がいた。


遺憾! 遺憾! 師匠が弟子に手を出してはいけない!


もし、私が誘惑したら弟子は立場上断り辛いだろうし、パワハラやセクハラになりかねない…………。


それよりも、芸に悪い影響が及ぼすと本末転倒である。


良く友達以上恋人未満と言う関係性の言葉を耳にするがーーーー。


“弟子以上恋人未満”よし! これで行こう!


私は、自分なりに恋愛感情と心の葛藤を整理した。


そうだ! 私も弟子のファンになろう!


これはちょっと違うか…………。


そして、気持ちを整理したにもかかわらず、邪な恋愛感情を持ちつつ毅然とした態度で弟子に振る舞う私であった。


そんな感じで数ヶ月が経ったーーーー。


新ネタの数も随分と増え、お客様の反応も良好で充実した日々を送っていた時、大道芸終わりにお金持ちそうなナイスミドルの方が拍手をしながら話しかけてきた。


「君達、素晴らしいよ!」


「私も今までに数あるショーを観てきたが凄く感動したよ!」


「この芸をここに留めておくのは非常に勿体無い!」


「私がスポンサーになってプロデュースをしてあげるから、世界で挑戦してみないか!」


そう言って私と弟子に名刺を配ってきた。


どこかの企画会社の社長さんらしい。


確かに、お金は持っていそうだが、こんなにウマイ話しがある訳ないと半信半疑だった。


これまでにも色々騙されそうになった経験上、余計に疑り深くなっているので、ここは丁重に断る事にした。


「気が変わったら連絡してくれ!」


そう言って社長は去って行った。


これでいいのだ!

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