第20話
数分の殺陣だが、日頃の練習の成果が問われる。
メンバーの中には、ここぞとばかりに自己主張をしてくる者もいる。
監督や撮影スタッフの目に止まれば、アクションスターに一歩近づく事が出来るからだ。
まぁ、私には関係のない事だけど…………。
今回のPVにピックアップされたのもお芝居やアクションの技術ではなく、筋肉と器械体操仕込みのアクロバットだけで選ばれたようなものだし。
それだから、嫉妬したり妬んでくる者もいる。
私より技術を持っている者達だけなら納得するのだが。
面倒臭い世界だ…………。
「カット! カット! カッーート!」
監督の声が響き渡る。
アクション講師も異変に気付き現場をストップさせた。
ステージ上に組まれた岩場の高い所から、飛び降りた者が足を引きずって殺陣を続けていたからだ。
「その足どうした?」
「なんでもありません!」
アクション講師の問いかけに、まばたきをほぼしない色白の者が答えた。
しかし、満足に立っている事も困難になった姿を見たスタッフが医務室に連れて行った。
結果、アキレス腱が切れていた…………。
いい所を見せようとして張りきって、いつもより高く飛んで頑張ったからのようだが、それだけではないだろう。
「気を取り直して行くぞ!」
アクション講師に代わりの者が呼ばれ撮影は、何事もなかったように再開された。
このように、代わりは幾らでもいるのだ。
殺陣の中盤の見せ場のひとつでもあるシーンで、また怪我人が出た。
石斧がエラの張った足の短い者の額に当たり流血を起こした。
医務室で止血の処置は行われたが、あとで病院に行ったら三針縫う事になったそうだ。
やはり、代わりの者が用意され撮影は再開された。
殺陣も終盤に差し掛かろうとした矢先に、またまた怪我人が出た。
石槍が、ベビーフェイスでいがぐり頭の者の手のひらを貫通した。
これは医務室では対処出来ず、救急車を呼ぶ事になった。
それでもまた、代わりの者が呼ばれ撮影は続行された。
遂に、最後の最後の見せ場で大事故が起こってしまった。
場所は、アキレス腱を切った岩場だった。
岩場の高い所で揉み合いになりながら、二人揃って飛び降りるシーンでその内の一人が、マットからズレて頭を打ったようだ。
アクション講師の呼び掛けにも、あやふやでフラフラしながら意識朦朧としていたので本日、二台目の救急車を呼ぶ事になった。
CTスキャンを受けて精密検査をした結果、大事には至らなかったようで胸を撫で下ろした。
ここまで怪我人が続出すると、流石に撮影も打ち切られるだろうと思ったのは甘かった。
何故ならここには、訓練中のアクション俳優が幾らでもいるからであった。
しかも、明日のアクションスターを夢見てーーーー。
日給五千七百九十四円で命を張る若者達が。
好きな事をしているからだとか、成功を目指しているからだとか、訓練生だからとか、いい経験が積めるからだとか、スターになりたいからだとか、そんな理由で対価に合わない危険な事をして命を削り頑張らなければならないのか…………。
アクションスターを夢見ていない私は、強い憤りを感じぜざるを得なかった。
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