第19話

拳銃騒動の衝撃が覚め止まぬまま次の日を迎えた。


朝からアクション講師がソワソワしていた。


もしかして、拳銃の事が大事に至ったのかな…………。


いや、そうではなかった。


今日は、原始時代村のPR映像を撮るらしい。


数ヶ月後のオーブンに向けての宣伝材料なのであった。


アクション講師に、私を含めた数人のメンバーがピックアップされた。


「よし! 衣装を着てステージに集まるように!」


「はい!」


少しワクワクした。


それもそのはず、初めて衣装を着るのですから。


ステージの脇にある控え室に、それぞれの名前が書かれた衣装が置かれていた。


私は、自分の名前が書かれた衣装を手に取り着替えた。


数秒で着替え終わった。


何故なら、動物の毛皮をイメージした布が、ペタッと貼られているパンツを履いただけだから。


しかも、上半身は裸なので私の衣装はこれだけ。


他のメンバーは、パンツは一緒でこれまた動物の毛皮をイメージした布切れを上半身に巻き付けたような感じになっていた。


のちに、この衣装を着るのは嫌だと言って辞めて行った者が結構いた。


確かに、普通の感覚であれば恥ずかしい衣装である事は間違いないでしょう。


それに、決して格好良くはない…………。


私の場合は、スポーツトレーナーの時にパンツ一丁でボディービルの真似事をして筋肉をチェックしていたので、正直あまり抵抗はなかった。


故にこの衣装はむしろ、ある意味の勝負パンツなのだ。


着替え終わった者からステージに集まってきた。


当然、私が一番乗りでしたが。


そして、アクション講師から殺陣で使う武器がメンバーそれぞれに配られた。


基本的には、原始時代なので石斧や木の棒がメインになっていた。


「はい、大地はこれ」


とアクション講師から手渡された武器はーーーー。


なんと! 石鎌だった。


しかも、私だけ。


これは、偶然なのか?


それとも、アクション講師にもカマキリ拳法の噂が、何かしらの形で伝わっていての必然なのか?


色々勘繰ってしまうではないか…………。


まあ、それはさておき早く殺陣を覚えなくてはならない。


まず、一連の流れを撮ってからカットを割って撮るらしい。


ここは、アクション講師の腕の見せ所。


いつになく気合いが入っていた。


殺陣もメンバーそれぞれのキャラクターを活かした見せ場もあり、格好良く仕上がっていた。


あとは、私達がそれに答えるだけであった。


アクション講師とPVの監督が入念に打ち合わせをしていた。


にもかかわらず、カメラマンの方がーーーー。


「回していこう!」


と煽って現場を仕切っていた。


実は、このカメラマンの方の経歴が凄かった。


ご自身で監督した映像作品が、国際的な映画祭で何度も入賞している程の実力の持ち主だ。


劇場公開映画も何作か監督しているらしい。


PVの監督とは自主制作映画を撮っていた頃の腐れ縁で、今回のギャラが良いと言う理由だけで片手間に引き受けたとの事だった。


アクション講師とPVの監督は安全に撮りたいと主張する為、何回もリハーサルを行うやり方に対して、カメラマンの方の考えは相反するものだった。


リハーサルを繰り返す事によって段取りになり、リアリティーと臨場感が失われると。


そんなやり取りを現場でやるのは辞めて欲しい。


ただでさえ冬の寒空の中、裸同然の衣装なので寒くてたまらないのだから…………。


しかも、そんな制作サイドの問題は私達には関係のない事だし。


唇を紫にしてブルブル震えていたらーーーー。


「よーい! アクション!」


おい! いきなりかよ! と思いつつも、原始時代村は何事もいきなりが多いので慣れてきた自分が怖い…………。


ほら、何の躊躇もなく身体が動いたよ。

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