第65話

ある日、お客様の評判も上々でウケも定着してきた頃、いつも通りセキュリティワールドで野外ショーをしていたらーーーー。


「泥棒ーーーー!」


と叫び声が響き渡った!


女性のお客様の鞄が、ひったくりに会ったようだ!


ひったくりに会った女性は、ひったくり犯を追いかけている。


私は、ショーの真っ最中で保安官に扮して泥棒役の後輩を追いかけている。


そんな追いかけ合いが繰り広げられている中ーーーー。


何と偶然にも逃げてきたひったくり犯が、ショーで追いかけるルートに入ってきた!


先頭を走る泥棒役の後輩の後ろに、ピッタリとくっついて逃げるひったくり犯を追いかける保安官役の私、その後ろからひったくりに会った女性が追いかけてくる。


こんな漫画のような出来事が本当に起こるとはーーーー!


びっくりしたのは、ひったくり犯の身のこなしであった!


曲がりなりとも後輩も私も現役のプロのアクション俳優ですよ。


その動きについてくる訳ですから、ただ者ではなさそうだ。


しかし、流石のひったくり犯でも、十メートルの鉄柵を登る事は出来ないだろう。


ここは、プロと素人の差が出るところ。


のはずがーーーー!


スルスルと登っているではないか!!!


しかも、ひったくった鞄を持ったままで!


何も持っていない私達よりハンディキャップがあるにも関わらず。


当然、途中まで追いかけてきた、ひったくりに会った女性は鉄柵を登れず立ち往生。


私は、後輩に告げた!


「そいつは、ひったくり犯だ!」


即座に理解した後輩と私とでひったくり犯を挟み込んだ。


しかも、十メートルの高さの鉄柵の上で!


「もう逃げられないぞ! 観念しろ!」


私は、ひったくり犯に呼びかけた。


しかし、ひったくり犯は聞く耳を持たず、悪あがきをしようとしたのでーーーー!


私は、後輩にサインを送り、一斉にひったくり犯に飛びかかった!


「アクション俳優を舐めるんじゃねーーーー!!!」


十メートルの鉄柵の上で、ひったくり犯を捕まえた。


そして、鉄柵の下まで引きずりおろして、ひったくられた鞄を女性に届け、待機していた警備員にひったくり犯の身柄を引き渡した。


その大捕物帳の一部始終を観ていたお客様達が、割れんばかりの大きな拍手を送ってくれた。


お客様の中には、全てがショーの演出だと思っていた方々もいたらしい。


ちなみに、地元のニュース番組にも流れ、新聞にも取り上げられた。


私と後輩は恥ずかしながら感謝状まで頂いた。


何よりも怪我人を出さなかった事が良かった。


しかし、よりによってセキュリティワールド内で泥棒をするとは、あのひったくり犯も何を考えているのだろう。


ただ、あの身のこなしと運動神経は、なかなかのものだった事には間違いない。


勿体ない、もっと別の事に生かせば良いのに…………。

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