第84話

赤ちゃんが出来た事で、喜んでいたのも束の間。


安定期に入る前に流産をしてしまった…………。


四十路を過ぎての自然妊娠率は五パーセント以下で、流産率は四十パーセントを超えているのだ。


物凄く残念だけど、この確率から判断すると致し方がない事なのか。


彼女は、酷く落ち込んでいる…………。


女性は身籠っていた分、男性とは感覚が違うから、そりゃそうだよなぁ。


彼女を慰める良い言葉が見つからない。


デリケートな事なので、この言葉選びは凄く難しい。


ここは焦らず、時が解決してくれるのを待つ事にしよう。


どれだけの月日が経ったのかーーーー。


私は、ようやく元気を取り戻した彼女の事が、とても愛おしく思え漢としてケジメをつける為に、プロポーズをした!


彼女は快く承諾してくれた。


ありがとう!!!


私は、彼女のご両親に挨拶を済ませて入籍をした。


その時、ふと兄の昔の言葉が頭をよぎった!


「結婚の報告を親父にした時に、家宝の事を教えて貰った」


と言っていた。


そしてーーーー。


「離婚したから、もう必要なくなった」


とも言っていた。


私は、二十年越しに家宝の謎解きに挑戦する事にした!


大切に保管していた“アレ”を部屋の奥から引っ張り出してきて、神社の位置を示す日本地図の描かれた家宝の和紙を広げた。


ちなみに、“アレ”とは願掛けされたパワーストーンの事でした。


更に頭をフル回転させて考えた。


そして、神社とパワーストーンの事を、当時は手軽に使えなかったインターネットを駆使して調べ尽くした。


恐るべしインターネットの情報量!


家宝の謎は解けた。


アクション俳優時代に訪れた全国にある七箇所の神社は、その各々の土地で子宝神社と呼ばれていた。


集めた七つのパワーストーンも、各々子宝に恵まれると言われている種類のものばかりだった。


あと、入籍手続きをする際に集めた必要書類で発覚したのだが、兄と私は養子縁組だったのだ…………。


おそらく、なかなか子宝に恵まれなかった父親と母親が、兄と私を養子で引き取った後、どうしても自分達の子供が欲しくなり、困った時の神頼みと言わんばかりに全国の有名な子宝神社を巡り、更に神主に子宝に恵まれると言われているパワーストーンに願掛けをして貰い、それを持ち帰って子宝が授かるように毎日祈願をしていたのだろう。


そして、ようやく奇跡的に授かった子が弟だったと言う事なのか。


どうりで、兄と私は年子なのに、弟とは年が離れ過ぎていたし、三兄弟の顔も全然似ていない訳だ。


それから弟を授かった父親と母親は、もう必要のなくなったパワーストーンを、自分達と同じ境遇の夫婦を少しでも手助け出来ればと思い、これから必要とする人に与えて欲しいと願い神主に返納したのだろう。


それを神主は、保管料と効力が弱まらないように定期的に願掛けをしている労力とエネルギーの合算分として、高額な金額で売っていたと言う事か。


更に、父親は身内に子宝に恵まれない者が現れた時の為に、返納した全国にある七箇所の子宝神社の場所を和紙に記し家宝にしたと言う訳か。


これが家宝の謎の全貌だ!


ロールプレイングゲームの主人公になった気分で、家宝の謎解きにチャレンジし続けて、二十年以上かかったがーーーー。


ミッションクリア!!!!!


しかし、これが奇跡的とは言え…………。


試してみる価値はある!


いや、試してみたいっ!!!


私は、妻と毎日一日も欠かす事なくーーーー。


七つのパワーストーンに「子宝に恵まれますように!」と祈願をした。


それから、今は弟夫婦と暮らしている父親にも入籍報告を済ませた。


その後、父親と一緒に母親のお墓参りに行った。


ちなみに、敢えて養子縁組の事と家宝の事には触れないようにした。


父親は、母親の墓石に向かってーーーー。


「ななこ………… 苦労ばかりかけて………… 本当にすまなかった…………」


と涙ながらに手を合わせていた。


その日、お墓参りから帰ってきて、いつも通り七つのパワーストーンに祈願をした。


すると、七つのパワーストーンが、一瞬神々しく七色に光ったように見えた!


まぁ、照明か何かが反射したのか、もしくは見違えか気のせいなのか…………。


数ヶ月後、再び体調不良を訴えた妻が、病院で診察を受けた。


その結果ーーーー。


なんと待望の赤ちゃんを授かった!!!!!


この時、私は四十四歳で妻は四十二歳。


出産に向けて妻は、とてもナーバスになっていたので、今度は念には念を入れて綿密に準備をして、万全な体制で望む事にした。


その甲斐あって無事に、元気な女の子が産まれました!


奇しくも亡くなった母親と同じ誕生日。


知り合いの占い師にアドバイスを貰ったり、各種姓名判断などを基に名前を調べた結果ーーーー。


平仮名が良いと言う事で、お互いの良い所が備わるようにと願いを込めて、二人の名前から私の直樹(なおき)の“な”と妻の奈美(なみ)の“な”を一文字づつ取ってーーーー。


“なな”と名付けた!!!


七つ集めた先にはーーーー。


“子宝”と言う掛け替えのない宝物があった。


そして、待望の娘の誕生をキッカケに、十数年ぶりに行き詰まっていた小説にもようやく着手する事が出来た。


その小説のタイトルとはーーーー。


『七つのもの』


内容は、私の人生そのものである。






           ーおわりー

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『七つのもの』 阿知尚康 @achinaoyasu

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