第35話

キャンペーン活動も二ヶ月が過ぎた頃、原始時代村の様子が気になったので、久しぶりに現地の仲間に電話をしてみる事にした。


そうするとーーーー。


驚くべき事になっていた。


まず、ドッグランが建設されたと!


“ペット同伴で楽しめる”をコンセプトにしたらしいのだが、実際に蓋を開けてみるとーーーー。


当初の目論見では、ペット同伴で原始時代村に遊びに来たお客様が、ドッグランも利用していくと言う事だったのが、ドッグラン目当てに来たお客様が、ついでに原始時代村に寄って行くと言う逆転現象が起こってしまっていると。


運営幹部の目論見は見事にハズレたが、結果的に集客に結びつけば良いと言う考えになっているようなのだ。


しかも、更に驚くべき事があった。


銭湯やゲームセンターも作る予定らしいのだ。


もうここまでくると、スーパー銭湯もしくは総合アミューズメントパークである。


原始時代をモチーフにしたテーマパークでは、なくなっているではないか。


一層の事、改名すれば良いものを。


確実にテーマを見失っている…………。


更に更にゴーカートも建設予定だとか。


現段階では噂止まりだが、観覧車も作るらしい。


私達は、何のキャンペーンをしているのか分からないではないか!


身体を張って一生懸命頑張ってショーをやっているのに、メインではなくなってしまうのか…………。


何か切なくて悲しい気持ちになった。


神社で“アレ”を買うお金も貯まってきた事だし、そろそろ潮時かなと思い始めた。


そして、残りのキャンペーン活動が終わったら、原始時代村を辞めようと決意した。


どのみちお金が貯まったら、辞める事には変わりなかったので、少し早まっただけの事だから。


デパートでショーをしている時でも、現状の原始時代村の事が脳裏にチラつく始末。


「はぁ…………」


溜め息しか出ない。


とりあえず、キャンペーンはやりきろう!


二ヶ所目のデパートのショーが終わって、いつも通り移動バスに乗り込んで暫く走った所で、イビキが聞こえてきたので気付いた。


なんと、一番後ろの座席で小学校低学年位の少年が寝ていた。


いつも驚いた顔をしている者が、気持ち良さそうに寝ている少年を起こした。


「どうしたの? お父さんとお母さんは?」


少年は眠気眼を擦りながらーーーー。


「お父さんとお母さんは離婚したから、お母さんしかいないの」


「お母さんとはぐれたの?」


「ううん、お母さんは彼氏の所に行って戻って来ないから、おじいちゃんの家に預けられているの」


「じゃあ、おじいちゃんは?」


「今日は、年金が入る日だからパチンコに行ってるよ」


「…………」


「ぼく、ひとりぼっちなんだ」


どうやら、複雑な家庭の子供らしい。


兎に角、急いでさっきのデパートに戻る事にした。


案の定、パチンコを終えたおじいちゃんが少年を探し回っていたので、事情を説明して少年を引き渡した。


「なんか凄く気持ち分かるし、可哀想な子だったなぁ…………」


いつも独り言を言っている者が、しみじみと言った。


「お前! まさか!」


いつも驚いた顔をしている者が問いかけた。


「うん、あの子に『信仰と私』の本をあげたよ」


「やっぱり! キャンペーン中は、そう言うのやめろって言っただろ!」


「約束したのは、メンバーを勧誘しないって事だよね」


「確かに…………」


「しかも、キッカケになる“心の拠り所”を与えただけで信仰するもしないも本人の自由だから」


「その証拠に皆、本を貰ったはずなのにハマったのは俺だけでしょ」


「確かに…………」


妙に納得してしまう私達であった。

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