第15話

十キロマラソン、筋トレ、アクション練習にも随分慣れてきた頃。


体力的にも少し余裕が出てきたので、駅前のトレーニングジムに通い始めた。


練習で何百回も筋トレしても自重以上の負荷がかからないので、私の筋肉にはしっくりこないのだ。


やっぱりウェイトトレーニングで、ヘビーな重量で負荷をかけないと筋肉も肥大しないからね。


そんなある日、いつものように駅前のジムからの帰り道、ゲームセンターの前で地元の不良達が数人たむろしていた。


別に気にも留めずに通過したのだけど、確かにうちの女子に似た者がいたように感じた。


暗がりだったので、はっきりとは確認出来ていないのだが。


まあ、世の中には三人のそっくりさんがいるって言うしね。


本当にいたところで、私には関係のない事だし。


今日も良いトレーニングが出来たので気分もいいから、余計な事を考えるのは止めておこう。


私は、鼻歌を歌いながら気持ち良く寮まで帰った。


すると、寮に着くなりカツラを被ったような髪型をした者が話しかけてきた。


「大地君、怪しい車いなかった?」


「いなかったけど、どうして?」


「最近、怪しい車が寮の周りを彷徨いているんだよ」


「本当に? 全然見かけた事ないけど」


「僕は、結構見かけているんだよね」


「では、今度見かけたら教えてよ」


「うん、分かった」


そう言って部屋に戻った。


二、三日経ったある夜、お風呂上がりにロビーで大型テレビを観ていたらーーーー。


「あっほら! 大地君見て! あそこに車停まっているよ!」


カツラを被ったような髪型をした者が、指を差しながら慌てて駆け付けてきた。


私は念の為、ロービーで寛いでいた仲間達を集めた。


案の定、いかつい者が車から降りて寮の玄関先まで歩いてきた。


いかつい者は、キョロキョロ見渡して奥の女子寮を物色しているように見えた。


すかさず、仲間達と隊列を組んだ。


もしかして、女子寮に入ろうとしているのかな?


確かに、田舎の若者にとってアクション女優を目指している女子達は、垢抜けて可愛い子が多いから興味を持つのは当たり前だろう。


しかし、勝手に入ってきたら不法侵入だからね。


幸いな事に女子寮の建築の構造上、男子寮の玄関を通過しないと辿り着けないようになっていた。


さぁどうする? 私達の牙城が崩せるか?


ここには今、喧嘩空手の有段者と元暴走族の総長とアームレスラーとカマキリ拳法の達人と少林寺拳法なんちゃって七段の者とカツラを被ったような髪型の者がいる。


さぁ! 越えられるものなら越えてみろ!


ふてぶてしく、いかつい者が玄関に入ってきた!!!


カツラを被ったような髪型の者と少林寺拳法なんちゃって七段の者は、軽く越えられてしまった。


まぁ、これは想定内だ。


私達の所に、いかつい者が近づいてきた。


ここぞとばかりに、元暴走族の総長が睨みを利かせて、喧嘩空手の有段者が指をポキポキ鳴らして、アームレスラーが太い腕に浮き上がる血管をピクピクさせた。


駄目押しに私が、タンクトップからはみ出した胸の筋肉を動かしながらーーーー。


「何か用かい?」


と問いただした。


すると、いかつい者は目をそらしてーーーー。


「いや………… 別に…………」


と言って小走りで車に乗り込み、威嚇するようにクラクションを鳴らして去っていった。


するとーーーー。


「どいてよ! どいて! もう邪魔よ!」


女子寮から猛ダッシュで、私達の包囲網を掻き分けてやってきた女子がいた。


私達の牙城が軽く越えられた…………。


長髪の金髪で耳と鼻とヘソにピアスをした女子がいきなり!


「男こなかった?」


と私に聞いてきたのでーーーー。


「安心して、追い返したから」


と答えるとーーーー。


「何を余計な事してくれてんのよ!」


「だって怪しそうに見えたから」


「あたいの彼氏よ! 失礼しちゃうわ!」


「…………」


私達は、白々しく用事を思い出したふりをして、それぞれの部屋に小走りで戻って行った。


長髪の金髪で耳と鼻とヘソにピアスをした女子は、いかつい者を探す為に、小走りで寮の外に飛び出して行った。


結局、怪しい車の正体はうちの女子の彼氏だった。


ジムの帰り道に駅前のゲームセンターの前で、地元の不良達に紛れ込んでたむろしていた女子は、そっくりさんではなくあの子だったのだ。


暗がりだったとは言え、あんなに特徴的な女子を見抜けなかったとは。


わざと暗がりにしているお店が、存在する理由が少し分かる気がした…………。

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