第17話

娯楽室で雑誌を読んでいた時ーーーー。


「はぁ…………」


いつも仲良くしているハの字眉毛の顎の長い者が、溜め息をついていた。


「どうしたの? 溜め息なんかついて」


「いや、なんでもないよ、はぁ…………」


「あっ! また溜め息!」


「はぁぁぁ…………」


「なんでもないようには見えないけど」


「実はさぁ………… お金に困っているんだ…………」


「えぇぇっ? 君も?」


「なんだ、大地君もかよ」


「ちなみに、どうして?」


「俺さぁ、実家に仕送りしているんだけど、ここの給料だと足りないんだよね…………」


「確かに安いからね」


「大地君は、どうして?」


「買いたいものがあって」


「そうなんだ」


「地道に頑張るしかないと思うよ」


「そうだよね…………」


「アクションスターになるのが夢なんだろ」


「うん…………」


「でも、実家に仕送りしながらだと大変だね」


「だから、困っているんだ…………」


「夢を取るか現実を取るか」


「だね…………」


「ねぇ大地君、当たり屋やらない?」


「何? 当たり屋って?」


「お金持ちそうな車に、わざとぶつかって治療費を貰うんだよ」


「それ犯罪だよ!」


「アクションで身に付けた受け身で出来そうだろ?」


「出来ない事はないだろうけど、何回も言うけど犯罪だからね!」


「もう、それしか思い付かないんだよ…………」


「いやいやいや、おかしいよ」


「じゃあ、他にいい案あるのかい?」


「ないけど…………」


「じゃあ、一緒にやろうよ!」


「確かに、手っ取り早くお金は手に入るけど、リスクも高いよ」


「リスクって?」


「怪我をするかもしれないし、バレたら当然捕まるし」


「そうだよね…………」


「それに、犯罪で手にしたお金を送って貰って喜ぶと思うか?」


「確かにそう言われると…………」


「話し変わるけど、どうしてアクションスターになりたいの?」


「実はさぁ、カッコイイから漠然となりたいだけなんだよね」


「大地君は?」


「あっあっそれねっ………… やっぱりカッコイイからかな………… 一緒だよっ一緒…………」


墓穴を掘ってしまった…………。


「でも現実問題、二兎追うものはー兎も得ずって言うしね」


「やっぱりアクションスターの夢を諦めるしかないかなぁ…………」


「あっそうだ!」


「どうしたの大地君? いきなり大声なんか出して」


「そう言えば、近くに出来た中華料理屋さんが、皿洗いのアルバイト募集していたのを思い出したのだよ」


「えっ? 夢諦めて中華料理屋で働けって事?」


「違うよ! 原始時代村の仕事が終わった後に、三時間程アルバイトすればいいのだよ」


「そうか! その手があったか!」


「二兎追うものは二兎とも得るのだよ!」


「だね!!!」


こうして、ハの字眉毛の顎の長い者は犯罪者になる事なく、汗水垂らして頑張って稼いだ真っ当なお金を仕送りしながらアクションスターへの道を歩むのでした。


一歩間違っていれば、共犯者になるところだった…………。


危ない危ない、一寸先は闇だね。

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