第27話
忍者の人気にあやかり、地元での話題性も広がりを見せて集客はうなぎ登り。
ゴールデンウィークも大盛況で迎える事が出来た。
ゴールデンウィークは営業時間が長くなるので、普段は八回のショーが十回に増える。
たかが二回増えただけだが、幾ら鍛えているとは言えど疲労は蓄積される。
当然、十回目は少し動きが鈍くなる…………。
擦り傷切り傷かすり傷、打ち身や打撲や捻挫は怪我とは言われない。
熱も三十八度五分を越えないと病人扱いされない。
靭帯を切ってもテーピングをぐるぐる巻きにして、固めて処置してショーに出続ける。
左肩を脱臼しても右手が使えると言う事で、これまたテーピングで固定してーーーー。
片腕の忍者として出演させられる。
こんな事を繰り返しているものだから、たいした怪我でなくても痛めた箇所がなかなか治らない。
しかも、痛いのを我慢してやっているので、気が立ってイライラしている者が多くなる。
非常に悪循環…………。
正に悪しき風習の根性論の世界。
故に、個人差はあるもののアクション俳優の活動生命が短くなる訳だ。
そんな状態で迎えたゴールデンウィーク終盤の十回目のショーで事件は起こった!
原始人と忍者の激しい殺陣の最中ーーーー。
客席から酔っ払いが舞台に上がってきた。
そして、舞台上で殺されて倒れている忍者の刀を奪い取り大声を張り上げた!
「ドスの使い方は、こうやるんじゃい!!!」
そう言って刀を振り回してきた。
「もっと腰を入れて! こうじゃ!」
酔っ払いが刀を振り下ろした瞬間、皆で取り押さえた。
どれだけ抵抗しても、私達から逃れる事は出来ないだろう。
通報を受けて駆け付けた警察官が、酔っ払いを速やかに連れて行った。
酔っ払いは、警察の取り調べでーーーー。
「ドスの使い方が、なっていなかったから教えてあげたかっただけだ」
と供述していたそうだ。
確かに、スピードと格好良さと美しさを追求しての殺陣なのでーーーー。
しかも、安全面からアクション用の“竹光”と言う竹で出来た軽い偽物の刀を仕様している為、本来の刀の重みを芝居で表現出来ていなかったのは事実かも。
アクション俳優としての課題が出来て、非常に勉強になりました。
子供は騙せても大人まで騙せなかったと言う事なのだ。
特に筋ものは…………。
ただ、ドスではなく刀だからね!
ちなみに、村内では酔っ払い対策として、お酒の販売を一人三本までと規制がかけられた。
そして、次の日の地元新聞の一面を飾った。
『原始人VS忍者VS酔っ払いの三つ巴戦!』
と言うタイトルで、酔っ払いを忍者と原始人が取り押さえている写真がデカデカと掲載されていた。
しかし、この事件が宣伝効果に繋がり集客数が伸びたのは言うまでもない…………。
正に“怪我の功名”であった。
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