第46話 体育祭準備

 本日から二学期がスタートだ。


 フィオナは相変わらず淑女の仮面を被って外さない。学園には行くと言うので、スフィアにしっかり見守ってもらうことにした。

 

 二学期の大きなイベントといえば体育祭と文化祭。


 体育祭に限っては既に前途多難だ。何故って、クリステルと俺がアリスをかけて勝負をすることになっているから。


 二年生の教室に入ると、早速元凶の真っ赤な髪のクリステルが見えたので声をかけた。


「おい、クリステル。俺に何の恨みがある」


「新学期早々酷いではないか。そんなに睨んで」


 席はいつもと変わらず俺は二位の席だ。前に座るクリステルの爽やかな笑顔に腹が立つ。


「クリステル殿下、あれはやりすぎですよ」


 ステファンも後ろから援護してくれている。ありがとう。


「スフィアには悪いと思っている。側室を迎え入れるなんて」


「それに関しては、スフィアは怒っていません。お世継ぎの為ですから」


「やはり心が広いな、スフィアは」


 うんうんと頷いているクリステル。今日は何をしても腹が立つ。


「はいはーい。みんな元気だった? 出席とりまーす」


 俺の苛立ちを和らげてくれたのはイレーナ先生。童顔にメガネ、今日も今日とて癒される。


「あ、授業終わったらクラス委員の二人ちょっと職員室まで来てくれる?」


「「はい」」


 クリステルと行動するのは嫌だが、イレーナ先生の頼みは断れない。


◇◇◇◇


 職員室に入るとイレーナ先生が両手を合わせて、ごめんねのポーズをとった。


「またまた申し訳ないんだけど、体育祭実行委員の生徒が怪我しちゃって、二人で代わりやってもらえないかな?」


 今はフィオナやアリス、クリステル、魔族のこと等、考えることが山積みだ。体育祭実行委員なんて正直やりたくない。


 悩んでいるとクリステルがイレーナ先生に質問した。


「先生、体育祭実行委員はルール等も変えたり出来ますか?」


「うーん、根本的なとこは無理だけど、多少の意見は通りやすいと思うよ」


「では、私はやります」


「ありがとう! クライヴ君は? やっぱり生徒会にクラス委員もしてたらしんどいかな」


 クリステルは何をやろうとしているのだろうか。俺との勝負で自分が有利になるようにするのか? 


 なんにせよ、俺にも意地がある。クリステルが一人で作った土俵に上がりたくないという意地が。


「大丈夫です。やります」


「ありがとう」


 俺も了承し、イレーナ先生が安堵の表情を見せた。


◇◇◇◇


 それからというもの、勉強に体育祭実行委員の集まりやクラス委員の仕事に生徒会の雑用、何かと忙しい毎日を過ごしている。


 そのため、アリスに関わることもなく今のところフィオナの暴走も見られない。


 フィオナとの関わりも減って寂しい限りだが、俺との距離が近すぎたことで精神的に不安定になるくらいなら距離を置くのも良いのかもしれない。


 そんなある日、アレンに生徒会長の特別室に呼ばれた。


「お前は馬鹿なのか」


 会って早々馬鹿呼ばわりとは、失礼極まりない。


「何がでしょう」


「フィオナが一番大切なのではないのか?」


 今更当たり前のことを聞かなくても、と思いながら返事をする。


「はい。一番です」


「では何故、俺に相談しに来ない」


 何をだろうか。婚約破棄については延期になっているし、慈善活動も一旦休止している。


 アレンは溜め息を吐きながら続けた。


「アリスをかけてクリステルと競うことになっているのだろう?」


「何故それを……」


 アレンが俺に近付き、ピアスを触られる。いつも思うが、顔が良い。そして手つきがエロい。


「これは盗聴機でもあるんだ。しかも音声を録音して何度も聞ける優れものだ」


「うそ……」


 今までの会話が全部筒抜け? あんなことやこんなことまで? 俺のプライバシーは……。


「嘘だ。この間ステファンから聞いた」


「なんだ、良かった……」


 ほっと一息つくと、被せ気味にアレンに言われた。


「良くないだろ。どうするつもりなんだ」


「うっ……まだ悩み中です」


 そしてその顔面はいつになったら遠くに行くんだ。こんな広い空間で密着する必要はあるのか。


「万が一お前が勝てば、フィオナのことだ、魔力暴走を起こして学園は湖と化す」


「ごもっともです。ではやはり負けるように手抜きを……」


「いや、クリステル派の誰かが悪魔の味方になっている可能性もある。むやみにアリスをクリステルの側に置くべきではない」


 確かに。そんなことは考えた事がなかったが、あり得る話だ。アリスが敵側につけば痛手が大きい。最悪アリスは殺される可能性だって出てくる。


 やはりクリステルを殺るしか方法が……。


「お前、死罪になりたいのか」


「アレン様、心の声を読まないでください」


「お前が分かり易すぎるのが悪い」


 アレンが不敵に笑った。


「だが、たった一つだけ、どちらも回避する方法がある――」

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