第83話 黒幕発覚

 アレンが目を覚ました後、すぐにクリステルも目を覚ました。


「ここは何処だ? 皆して何をしている?」


 クリステルが一番状況を把握していない為、アレンが順を追って説明した。それを聞いたクリステルは青ざめて言った。


「私は、私はアリスになんて酷いことを……すぐに謝罪してくる。うわッ」


 いきなり立ちあがろうとしたため、思い切りよろけた。そんなクリステルにレナが淡々と言った。


「五日間も寝たきりだったのです。筋力が落ちて当然でしょう。暫くはリハビリして下さいね。アレン殿下もですよ」


「はい」


 レナはまだ十二歳なのに母親のようだ。あのアレンがしおらしい。


 俺はクリステルが元に戻ったらずっと聞いてみたい事があったので、早速聞いてみた。


「クリステル、気になってる事があるんだけど良いか?」


「なんだ?」


「アリスに手は出したのか? 出してないのか?」


「まぁ、お義兄様ったら……」


 フィオナが頬を染めているが、ちゃっかり耳を傾けている。クリステルは真面目な顔で言った。


「手は出していない。綺麗な髪だから色んなヘアアレンジをして遊んでいただけだ」


 クリステル以外のみんなが一斉に吹き出した。クリステルが照れながら言った。


「別に良いだろう。兄上だってやってるじゃないですか」


「確かに、俺もクリステルの事笑えないな。はは」


 兄弟揃って趣味がヘアアレンジなんて変わった王子様達だ。でもこれでアリスは純潔ということになる。誰とでも新しい恋愛に踏み切れるはずだ。


 再び、アレンが真剣な表情に戻りクリステルに聞いた。


「ところで、アリスに催眠をかけたのはお前だとしても、お前に催眠をかけたのは誰なんだ?」


 皆がクリステルの方を見た。クリステルはゆっくりと口を開いた。


「父上だ」


 国王が!? まさかそんな……。


 しかし、アレンは知っていたかのように言った。


「やはりな。このお香と同じようなものを父上といる時に嗅いだ事がある」


「アレン様も催眠にかけられたんですか? でも正気……ですよね?」


 つい疑問系になってしまった。だってこの間の一件……まさか、キスの嵐や言動、行動は全て催眠によるもの?


「俺は正気だ。全て俺の責任でやったことだ」


「左様ですか」


「闇属性のおかげか、俺は催眠にかかりにくいらしい。幼い頃『お前は使えん』と言われた記憶がある」


 実の親からそんな言葉が出るなんて悲しすぎる。だからこんな捻くれた性格に……。


「クライヴ。やはりお仕置きの続きをしようか?」


「いえ、何でもありません。ごめんなさい」


 俺とアレンの会話をよそにレナはクリステルに指輪を渡しながら言った。


「まぁ、クリステル殿下もまた催眠にかけられるかもしれませんので、こちらを肌身離さず持っていて下さい」


「ブレスレットじゃないんだな」


「あれは女性用ですから。男性は専ら指輪かピアスですね」


 そんなこんなで、アレンとクリステルも無事に戻って来られ、黒幕も分かったところでそれぞれ帰路についた。


◇◇◇◇


 帰ると、突然フィオナに詰め寄られた。


「お義兄様、アレン様と何かありましたの?」


「え、何もないけど」


「本当ですか? 神に誓って言えますか?」


 フィオナは浮気を疑っているのか? あれは浮気に入るのか。入るだろうな。神には誓えないが、ここは正直に言わない方がお互いのためだ。


「何もない」


「そうですか……」


 フィオナが複雑そうな顔をして、少し躊躇いがちに言った。


「アレン様を見ていると、以前のわたくしを見ているようなのです」


「フィオナを?」


「はい。わたくしが一番不安定だった頃です。わたくしが身を投げた時のような……それより酷いかも知れません」


 フィオナは体育祭の時、俺がアリスを賭けた勝負をしているのを知って身を投げた。てことは、俺がアレンを拒んだせいで自殺をするかもしれないと言うことか。でも……。


「それなら、クリステルの心の扉を開けずにそのまま残ったんじゃないか?」


「それは分かりませんが……気にかけて差し上げた方が宜しいかと」


「分かった。ありがとう」


 そう言って、フィオナと俺はそれぞれの自室へ入っていった――。


 それにしてもフィオナもアレンも同じヤンデレ同士。通じ合うものがあるのかもしれない。この二人がくっついた方が互いが互いに依存しあって結果的に丸く収まるような気がする。


「俺が何もかも邪魔してるのかな……」


 頭を抱えている俺に、フィンが擬人化して聞いてきた。


「ご主人様はまた悩み事ですか?」


「俺はどこか遠くへ行きたい……」


 俺がいると皆が不幸になる。俺が転生していなければ。モブはモブなりに干渉せずエリクのように遠目から傍観くらいが丁度良い。


「わかりました。ではこれから……」


 そう言って、フィンが俺を担ぎ上げたので慌てて言った。


「ごめん、俺が悪かった。物の例えだから」


「そうですか」


 フィンは何やら残念そうに俺を下ろした。そんなフィンの頭を撫でながらもう一つの問題を考えた。


 国王が黒幕なのは分かった。ただ、国王なんて誰も手が出せない。やはり仕掛けようとしている魔法陣をどうにかするしかないか……。


「今日はやめた。フィン、元の姿に戻ってくれ」


 俺も丸二日眠っていない。考えるのはやめて、フィンをモフモフしながら眠ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る