第84話 魔法大会に向けて
「みんな凄い張り切りようだな」
「魔法大会まで後ひと月しかないからな」
そう言いながらステファンが水を自由自在に操っている。その姿は精霊が踊っているかの如く、誰もが見惚れる程に美しい光景だ。
クリステルが正気に戻ってから、早いもので一ヶ月が経った。
――突然違う動きをしたら違う策を講じられて再びややこしいことになる恐れがある為、アリスはまだ名目上クリステルの側室候補になっている。
変わったことと言えば、ステファンがやっとクララを諦めた事だ。流石に公爵家の力を持ってしても見つからなければ、もう無理だと思ったのだろう。次の運命の相手が出てくるのを祈るばかりだ。
そして、フィオナが心配していたアレンだが……今のところ自殺をする素振りは見られない。しかし、以前のような距離感がバグることもなく、蕩けるような甘さもない。
反対に罵られることもこき使われることもなく、何と表現すれば良いのか分からないが、普通なのだ。今までに見た事がないくらい普通。
かと言って元気がなさそうな訳でもなく、話しかけると微笑んで相槌を打ちながらアドバイスをくれる。今までのアレンは偽りで、これが本来のアレンだったかのような錯覚に陥る――。
そして今、クラスの生徒達は皆、魔法大会に向けて己の魔法を磨いている真っ最中。
「みんな、聞いてー」
イレーナ先生が声をあげると、クラスの生徒達は次々とイレーナ先生の方を向いた。
「今年の魔法大会は、四人一組のグループ戦をした後、勝ち進んだ者たちで個人戦をしていくことになりました」
生徒の一人が挙手をした。
「先生。グループはどうやって決めるんですか?」
「同学年なら好きな人同士で組んで良いわよ。人数も四人一組だったら余ったりしないから安心して良いわ」
「はーい」
今までは個人戦だったので、随分と時間がかかっていたのだ。グループ戦にする事で時間短縮を図るのだろう。
イレーナ先生が話し終えると周りはざわつきながら、再び魔法を磨いて授業が終わった。
◇◇◇◇
そして昼休憩。俺はクラスの男女複数名に囲われている。
「あなた誰と組む気?」
「まさかクリステル様じゃないわよね?」
「それともステファン様?」
「えっと……」
集団リンチに合っているようなこの状況はなんだ。俺は何か悪いことをしたのか。すると、突然皆が頭を下げた。
「「お願い、私(僕)と組んで下さい」」
「え……?」
「あなた強いんでしょ?」
「僕たち、成績悪くてさ。ヤバいんだよ」
魔法大会での順位は成績に影響してくる。マイナスになることはないが、ある程度の順位になれば今の座学、実技の成績に加点される。だが、俺は今までに一度としてクラスメイトから頼りにされたことはない。
「どうして俺? クリステルやステファンと組めば良いじゃないか」
「そんなの恐れ多くて頼める訳ないだろ」
「それに引き換えあなたは地味で冴えない割に強いから頼みやすいのよ。だからお願い」
何故軽くディスられながら頼まれないといけないのか。それが人に物を頼む態度かと言いたいところだが、頼まれたら断れない。
「良いけど、二人までな」
流石に一人くらい気がおける友人が良い。
公平にじゃんけんでメンバーを決めることになり、勝ったのは女子二名だった。
「やったわ。これで次回赤点取っても大丈夫ね」
「くそー」
「勉強はちゃんとしろよ……」
俺が呆れていると、勝った女子二名がキラキラした目で聞いてきた。
「もう一人は誰にするの?」
「クリステル様? ステファン様?」
なんだこの現金な奴らはと思っていると、エリクがちょうど視界に入ったので言った。
「エリクにするよ」
「「えー」」
女子二人に物凄く残念そうな顔をされたが、魔法大会の勝負を人任せにする上に、クリステルやステファンとお近づきになりたいだなんて図々しすぎるにも程がある。エリクくらいが丁度良い。
「クライヴ、何勝手に決めている。僕にだって選ぶ権利が……」
エリクはそう言いながら目をキラキラさせて、断れオーラを出している女子二人を見て言った。
「喜べ、一緒のチームになってやろう」
女子二人は落胆し、それを見ながらエリクはニヤリと口角を上げた。
これはモブによる細やかな意趣返しのおはなし――。
ではなく、義妹に執着される話なのでたまにはフィオナに会いに行くことにした。
◇◇◇◇
「エリク、別に付いてこなくて良いんだぞ」
「他学年に行くなんて不安だろうと思ってな」
そんな言い訳をしながら、スフィアに会いたくてエリクがちゃっかり付いてきた。
一年生の教室では、フィオナとスフィア、アリスとアルノルドの四人が仲良く話をしていた。フィオナが俺に気が付いて、こちらに歩いてくる。
「お義兄様、どう致しました?」
「いや、フィオナに会いたくなって」
「まぁ」
頬を染めるフィオナ。相変わらず可愛いな。それより……。
「アリスと仲直りしたんだな」
「はい」
そう返事をしながら、フィオナが周囲に聞こえないように耳打ちしてきた。
「実はここだけの話、アルノルド様と良い感じらしいですわ」
「そうなのか。アルノルドも報われたな」
アルノルドの方をチラリと見れば、にっこり笑顔で手を振られたので振り返しておく。そして、アルノルドはハッと何かを思い出したように俺の元へやってきた。
「先輩、魔法陣とか詳しいですか?」
「教科書に載ってるレベルのしか分からないけど、どうしたんだ?」
「いやー、地下の部屋片付けるように言われたんですけど、壁に大きな魔法陣描かれてて。何系のか調べたんですけどよく分からないんですよ」
この学園、地下室なんてあったのか。地下室の壁に魔法陣なんて怪しすぎる。いたずらか何かの実験だろうか。
「それ系に詳しいのはアレンかステファンだな」
どっちを連れて行こうか悩んでいると、エリクが提案してきた。
「二人同時に見てもらえば良いんじゃないか? 色々な見解が聞けるし、何度も行くのも面倒だ」
「そうだな。放課後誘ってみるから、アルノルド残っててくれ」
「ありがとうございます!」
こうして、放課後に地下室探検……魔法陣の調査に行くことが決まった。
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