第五章 人類滅亡一歩手前
第64話 潜入捜査
本日は学園が昼で終わる日。
午後から俺はアレンによって再びクララとなり、アレンと二人仲良く馬車に乗っている。
「どうした?」
「いえ、本日のアレン様はいつもと違う格好良さだなと思いまして」
「褒めてくれるのか、ありがとう」
クララ姿の俺には酷く甘いアレンは蕩けるような笑みを向けてくる。目がやられそうだ。
何故こんな状況になっているのかと言うと、魔法省に例の男を探りに行く為だ。
――アレンに前世の記憶について打ち明けた後、エリクも混ざって作戦会議をした。
『あれから一ヶ月は経った。そろそろ良いだろう』
『何がですか?』
『魔法省の男を探りに行く』
人間界への侵略など規模がでかい為、できることからコツコツとだ。見つけてすぐに動いたら怪しまれると、少し寝かせていたらしい。
そして早速行くことになったのだが、俺は顔バレしている為、クララに変装したというわけだ。
ついでにアレンも王子だから皆が知っている。少し変装して無造作ヘアからオールバックにし、メガネを着用している。
元の顔が良すぎる為、どんな格好をしても見惚れてしまうほど似合う。羨ましい。
エリクはアレンを見た後、何かを察したようで付いてこなかった。どうしたのだろうか。
「クララ、こっちへおいで」
極上スマイルでアレンに隣に来るように勧められた。
「いえ、遠慮しておきますわ。キャッ」
「クララから飛び込んできてくれるとは嬉しいな」
馬車が揺れた拍子に思い切りアレンの胸にダイブしてしまった。
俺も馬鹿みたいに女装をしたら女性になりきる癖が染み付いてしまっている為、仕草や言動は正に淑女のそれだ。気持ち悪いと思うが、見た目はものすごい美少女だ。許して欲しい。
結局そのまま横に座らされて魔法省までやってきた。
◇◇◇◇
「見当たりませんね。どちらにいらっしゃるのでしょう」
「ここは広いからな。少し休憩しようか」
「そうですわね」
男の素性は分かっておらず、以前は廊下で話していたので部署等も分からない。その為、地道に歩いて探している。ちょうどテラスがあったので、そこで休憩することになった。
「クララ、どうした?」
「いえ、何でもありませんわ」
慣れないヒールの靴を履いたので靴擦れをおこしていた。女性は大変だなと思いながら痛みを我慢していると、アレンが目の前で跪いた。
「何をしていらっしゃるのです!? おやめ下さい」
王子を跪かせるなどあってはならない。必死に止めるがそんなのお構いなしに、俺の右足をそっと持ち上げた。
「これは痛そうだ」
「大丈夫ですから。おやめください」
この世界に絆創膏なる便利な物はない。どっちにしても我慢するしかないのだ。早くその手を離してくれと思っていると、前の方から探していた声が聞こえてきた。
俺の反応をいち早く察知したアレンが、そのままの体勢で聞いてきた。
「いるのか?」
「はい。こちらに向かってきています」
丁度俺達が座っている席の横に腰をおろした。同僚らしき男性と二人だ。以下、ややこしいので襲ってきた方を男A、もう一人を男Bと呼ぼう。
『休日はどんなことするんですか?』
男Bが話すが、声に聞き覚えがない。男Aがそれに応える。
『この間は学園の文化祭に少々足を運びましてね。活気に溢れていましたよ』
文化祭!? 男Aは学園に来ていたのか。
『それはそれは。僕たちにもそんな時期があったはずなのに随分と昔のことのようですね』
些細な会話がポツポツと続くが、特段有益な情報を得られないと感じたのか、アレンが二人に接触した。
「失礼ですが、医務室は御座いますでしょうか」
「体調が悪いのかい?」
「父の忘れ物を届けに来たのですが、妹が靴擦れを起こしてしまい……」
「妹さんが。それはそれは、痛むのかい?」
そう言って男Aが俺の方へやって来た。俺の顔を見ても気付いていなさそうだ。ステファンですら気付かないのだから気付くはずないか。
「はい、痛くて暫く歩けそうにありませんの」
儚げに目をきゅるるんと潤ませながら、女性の可愛らしさを最大限に引き出してみる。男Aは一瞬フリーズし、頬を染めた。効果は抜群なようだ。
「案内しよう。少し歩けるかい?」
「はい」
アレンの手を取り、ゆっくり歩く。これからどうしたものかと考えていると、アレンが耳打ちしてきた。
「着いたら先ほどのように、少し誘惑しといてくれ」
「分かりましたわ」
少し歩いた所に医務室があった。
「申し訳ない。あいにく医師は不在のようだ」
「僕、怪我して何度かお世話になったので薬草の場所や薬の作り方知っていますよ」
そのまま帰らされるかと思いきや、男Bが思った以上に良い仕事をしてくれた。
「ありがとうございます」
そう言いながら椅子に腰掛ける。
アレンに言われた通り、男Aの気をひきつける為、話しかけた。もちろん上目遣いは忘れない。
「お兄さん、魔法省で働かれるなんて立派な方ですね」
「いや、魔法が好きなら誰でもなれるよ」
「そんな事ありませんわ。努力なされたはずです。私一生懸命何かする人、とても尊敬します」
そう言って男Aの両手をとった。
「申し遅れました。私、クララと申します。お名前を伺っても宜しいですか?」
「俺はジャンだ。今度食事に誘っても?」
「私なんかを誘って下さるのですか? 嬉しい」
極上スマイルで悩殺していく。ちょろいな。
フィオナも俺と話す時、こんな感じに計算し尽くしているのだろうか。計算だと分かったとしても、俺はフィオナの沼に落ちて行きたいと思う。
アレンがこそこそとジャンの後ろで何かしているが、ジャンは俺に目を奪われて全く気付いていない。
「お待たせしました。お嬢さん、足を出してもらっても宜しいですか?」
男Bが軟骨を持って来た。そこですかさずアレンがやってきた。
「ありがとうございます。これでも未婚の娘、足を殿方に見せる訳には参りません。僕が代わります」
「配慮が足らずすみません。では、よろしくお願いします」
そこまでゴツゴツした大きな足でもないので、足を見られても男だとは気付かれないと思うのだが。心配性だなと思いながら、アレンが軟膏を塗るのを見ていた。
◇◇◇◇
「貴重なお時間を私のために、ありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いか……」
「大丈夫ですよ。お気をつけて」
「クララ、それではまた」
俺とアレンはジャン達と分かれの挨拶をして馬車に乗り込んだ。
「アレン様、何をなさっていたのですか?」
「ああ、身分証やら持ち物の確認と一応相手の居場所が分かる魔道具を仕込んでおいた」
あの短時間でバレずにそこまでするとは流石アレン。
「それよりクララ」
「はい、なんでしょう」
「誘惑しろとは言ったが、手を握れとは言っていないぞ」
アレンがアルカイックスマイルで言った。目が笑っていないので怖すぎる。何かまずかったのだろうか。一応謝っておこう。
「ごめんなさい」
「分かってくれたなら良い」
そう言ってニコッと微笑まれた。なんだか、フィオナと話しているようだ。
てことは……この後何かが起こる。
いつもそうだ。何か良からぬ方へと発展してしまう。俺が鈍すぎて気付けていない何か……。
だが、そんなことを考えたところで鈍すぎる俺には到底答えはでない。考えるのを諦めて俺はアレンにニコッと微笑み返しておいた。
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