第65話 占い

 今は昼休憩、ステファンと食堂でランチ中。


「クライヴ、頼む。この通り」


「えー、嫌だよ」


 ステファンに先程から何度もお願いされている事がある。

 

 それは、クララとのデートプランについてだ。


 ――魔法省から帰ってきた俺とアレンは学園に戻った。流石に屋敷にアレンを呼んで化粧をしてもらうわけにもいかず、かといって王城は敵だらけ。学園で女装して出かけ、元の姿に戻る為に学園に戻ってきたと言うわけだ。


『着替える前に、お手洗いへ行って参ります』


『分かった。部屋で待ってる』


 アレンを待たせてトイレに向かったのは良いのだが、こういう場合、女子トイレと男子トイレどちらに入るべきなのだろうか。


 そのまま暫くトイレの前に立ち尽くしていると、この時間は誰もいないはずなのに背後から声をかけられた。


『君は……やっと見つけた! ずっと探していたんだ。僕の運命の人。会いたかった』


 何故か感極まったステファンに抱き締められた。ほぼ初対面に近い相手を抱きしめるとは……。


『あの、私お手洗いに入りたいのですが……』


 恥じらいながら言うと、パッと離してくれた。


『すまない。ここで待たせてもらっても?』


 いや、トイレ待ちされるのはちょっと……と言いたい所だが、ステファンの嬉しそうな顔を見ると断れない。


 やむなく女子トイレに入り、用を済ませるとステファンが目をキラキラさせながら待っていた。


『どうしてこんな時間に学園に?』


『忘れ物を取りに来ていたのですわ。ステファン様は?』


『僕もだ。運命とはこういうことを言うのだな』


『ふふ。そうかもしれませんわね。それではまた』


 早く切り上げて去ろうとすれば、腕を掴まれて逃がしてくれない。


『待ってくれ』


 ステファンは、こんな積極的な奴だっただろうか。普通の女子ならこの状況はドキドキが止まらないだろう。直ぐにでも求愛を受け入れるだろうが、そんな訳にもいかない。


『あの、ステファン様?』


『次の休み、デートをしてくれないか』


『でも……』


『絶対退屈させないから。一生懸命プランも考えるから。宜しく頼む』


 ステファンの根気に負けてしまい、今に至ると言うわけだ――。


 ステファンは、その見た目とは反対に女性付き合いが苦手で、美辞麗句を並べて歩きながら社交場を乗りきっている。フィオナとは仲良しみたいだが、その他の女性とは今でも上手く話せないらしい。


「せっかくデート出来る事になったのだ。頼む。ここで失敗すればもう二度と会ってくれないかもしれない」


「そんなこと言われても……」


 クララって俺だし。その俺が一緒にデートプラン考えるのおかしいだろ。


「あんた、さっきから見ていれば、レイヴェルス様がこんなにも頭を下げているのに何様なの」


「そうよ、無礼にも程があるわ」


 この声は懐かしい。


「悪役トリオじゃないか。久しぶりだな。もうすぐテストだけど赤点取るなよ」


「だから、そんなヘンテコな名前ではありませんわ」


 悪役トリオは相変わらず元気そうだ。何故か、久々に姪っ子に会う叔父さんの気分にさせられる。


「そういや、最近は誰かをいじめたりしてないのか?」


「いじめっ子みたいに言わないで下さい」


「そうですわ」


「私たちはそんなこと致しません」


 悪役トリオは口々に否定していくが、アリスをいじめていたのは確かだ。


「あれは何だったのかしらね」


「本当ですわ。でもあの時はアリスさんに難癖をつけないといけない気がしたのよ」


「確か、占いに行った後からですよね」


 悪役トリオの様子がおかしい。アリスをいじめていた頃の威勢がないし、アリスのいじめは自分達の意思ではないような言い方だ。


 そもそもがアリスはクリステルルートに入っていなかった。それなのに無理矢理入れられたかのような構図。これは、アリスが囚われるもっと前から仕組まれていたのかも知れない。


「その占い、どこにあるんだ」


「王都から少し離れた路地にありますわ」


 俺はステファンに向き直り、言った。


「よし、ステファン! デートプランが決まったぞ」


◇◇◇◇


 というわけで、本日、俺はステファンとデートをしている。もちろんクララになって。


「来てくれてありがとう! やはり気が変わって来てくれないのではないかと心配していたんだ」


「そんな……私はそんな酷い女に見えますか?」


「とんでもない。君は身も心もどこまでも美しいよ」


 初めはドタキャンする予定だった。何故って、アレンが猛反対するから。アレンの許可がなくても無理に行くことは可能だが、物理的にアレンがいないとこの姿になれない。


 だが、悪役トリオも何らかの精神干渉を受けていた可能性が出てきた。


『この機会に探って来ます』


『なら、俺と行けば良いじゃないか。わざわざステファンと行く必要はない』


『クララとして、きちんと振ってやりたいんです。その方が諦めもつくでしょう』


 俺がそう言うと、アレンは一瞬躊躇った後、確認してきた。


『俺の元に必ず戻って来ると約束できるか?』


『はい』


 と言う一悶着があって、ようやく許可が出た。


 変装後、俺の服や所持品はアレンが管理してくれている。わざわざ戻って来るか約束しなくても戻るに決まっているのに、おかしなアレンだ。


「占いは好きかい? 女性は皆好きだと聞いたのだが」


「はい! とても興味がありますわ」


「良かった。では、食事をして占いに行ってみよう」


「楽しみですわ」


 ニコッと微笑むとステファンの緊張した顔が和らいだ。


 早速王都で人気のレストランに入った。食事は物凄く美味しかった。ステファンも一生懸命話題を振ってくれ、それに相槌を打つ。いつも一緒に食事を共にするのに、いつもとは違う楽しさがあった。

 

 そして、いよいよ占いだ。薄暗い路地の奥まった所にそれはあった。いかにもって感じだ。


「入るぞ」


「はい」


 俺はステファンの腕に手を絡めた。だって、外観がお化け屋敷のようで怖いのなんのって……。俺の行動にステファンも一瞬驚いていたが、何も言わず腕を貸してくれた。優しい奴だ。


 中に入ると暗い廊下が続き、所々に蜘蛛の巣がはってある。歩いていくと、一番奥に占い師らしき人がいた。


「いらっしゃい」


「宜しく頼む」


 ステファンと俺は椅子に座り、水晶を挟んで占い師と向かい合った。もちろんステファンの腕は借りたままだ。


「何を占いたい?」


「では、今後の僕とクララの行末を」


 直球すぎる。そして顔が本気だ。


 占い師が水晶を覗き込んで言った。


「何やら隠し事がありますな……それを打ちあける時、二人は強い絆で結ばれる。と出ておる」


「本当か! やったなクララ。やはり運命なのだ」


 ステファンは嬉しそうだが、俺が男だとバラしたら結ばれるって事か? その場合……ステファンが受けで俺が攻めかな。


 いやいやいや、俺にそんな趣味はない。


「他には何かありますかな」


 占い師が聞いて来るので、俺は言った。


「精神を操るようなものも出来ますか?」


「特別料金がかかりますが、どんな物を御所望で?」


「いえ、本日あまり持ち合わせていないのでまたにしますわ」


「そうですか。では、細やかながらお二人の未来を願って、これをプレゼント致しましょう」


 そう言って一粒の飴玉をくれた。そして、俺だけに聞こえるように耳打ちしてきた。


「上手く使いなされ」

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