第73話 教育と言う名の……

 *残酷描写あります*



 周囲は闇に包まれ、アレンと土魔法を使う男の二人だけが見えている。どこにも明かりがないにも関わらず。


「それで? どうやって死にたい?」


「ヒッ……」


 アレンはアルカイックスマイルで男に言うと、男は身震いして言い訳を始めた。


「あの娘にはまだ手を出してねぇって。だから……」


「まだとは? 後に手を出す予定だったのか?」


「痛ッ!」


 どこからともなく男は攻撃を受ける。男は魔法を発動させようにも、辺りは闇に包まれ木々が見当たらない。下は土のはずなのに、それすら反応しない。


 男は走った。どこに向かっているか分からないがとにかく走った。だが、闇は一向に晴れる様子はない。むしろ濃くなっているような気さえする。


 アレンがゆっくりと歩いて近づいてくる。男は走っているはずなのに、その距離はどんどんと近づく。


「さぁ、いつまで鬼ごっこを続ける気だ」


「くそッ、どうなってやがる」


 男はアレンに向き直り、剣を構えた。しかし、その剣はすぐに霧のように闇へと消えた。そして、アレンは大人が子供を叱るように言った。


「ダメじゃないか。そんな物騒な物を人に向けちゃ。剣はこういう下劣な物にこうやって使うんだよ」


「うわぁぁぁぁぁ!」


 アレンが振り下ろした剣は男の左手の甲に突き刺さった。


「ほら、痛いだろ。刺されたら痛いんだ」


 男は痛みにもがき苦しみながらも剣を引き抜き、アレンに斬りかかる。しかし、またもや剣は闇へと消える。


「何度教えたら分かるんだい? 学習能力のない奴は嫌いだよ」


「うわぁぁぁぁぁあ」


 もう片方の手の甲にもアレンが剣を突き立てる。


「あーあ、両手が使えなくなっちゃったね。今度はどこが良い? 足かな? 足があるから何度も狙いに来るんだもんね」


「やめろ、やめてくれ! 頼む、女の居場所は教えるから」


 男は必死に命乞いをし、アレンは少し悩んだ様子を見せて言った。


「居場所は教えてもらおうか」


「ここから西の方に進んだら屋敷があるんだ。そこの一室で拘束されている。ほら、言ったんだから助けてくれ」


 男は早口にそう言い、アレンに縋りついた。それを見ながらアレンはニヤッと笑って言った。


「誰がいつ助けると言った? 俺の一番大切なモノに手を出したんだ。どういうことか分かるよな」


 男の首の周りにフワフワと黒いモヤがかかった。


「ひっ……」


「あーあ、汚いなぁ。赤子でもあるまいし」


 男は恐怖のあまり失禁した。


「もう殺してくれ。頼む。俺が悪かった」


 男はこの状況に耐えられなくなり、死を願った。しかし、アレンはそれを許さない。


「すぐには殺さないって言っただろ。苦しんで苦しんで死んだ方がマシって思っても殺してやらないよ」


 アレンは闇魔法でじわじわと男の首を絞めながら続けた。


「それに、あいつは人殺しを好まない。俺は嫌われたくないんだよ」


 男はとうとう失神した。


「あーあ、もうちょっと楽しみたかったのにな。また今度ね」


 アレンはそう言ってポワンと闇の空間を作り出し、そこに男を投げ入れた。


 アレンが闇魔法を解くと、辺りは先程の荒地に戻った。何事も無かったかのような顔をしてアレンは西にある屋敷を目指した。


◇◇◇◇


 一方、フィオナは。


「どうしてこんな所に魔物がいるのかしら?」


「フィオナ様、この森、微量ですが瘴気があります。あそこに見える屋敷に向かう程にその濃度は濃くなっております」


 フィンがフィオナをおんぶした状態で目の前に出てくる下級魔物を薙ぎ倒し、不意打ちで狙ってきた魔物をフィオナが仕とめていった。


「お嬢様! やっと追いついた」


「ルイ、遅いわよ。それより魔物のせいでさっきの男を見失ってしまいましたわ」


「でも、この状況からして、明らかにあの屋敷が怪しいですね」


 ルイが下級魔物を剣で斬りながら、ポツンと森の中に一軒だけそびえ立つ屋敷を見つめた。


「そうね。あの屋敷を目指しましょう。きっとお義兄様がいますわ」


 フィオナも屋敷を見つめ、そう言った。三人が屋敷を目指そうと前へ進むと一体のバジリスクが現れた。


「お嬢様! 目を瞑って下さい!」


「え、なに!?」


 ルイに言われるがままフィオナとフィンは目を瞑る。


「あれは、バジリスクです。目が合うと石化してしまいます」


「厄介なのが出てきたわね」


 フィオナもダンジョンで戦闘訓練を積んだおかげでSランクにまで成り上がった。大抵の魔物は容易く倒せるが、目視せずに戦闘はしたことがない。


 ここで、三人が足止めされるのは時間の無駄だと判断したルイが言った。


「フィン、お嬢様を連れて屋敷の方へ走って下さい。ここは私一人で十分ですから」


「承知致しました」


「でもルイ……。分かったわ、頼むわね」


 そう言って、バジリスクはルイに任せてフィオナとフィンは前に進んだ――。


「フィオナ様、もう目を開けて大丈夫ですよ」


 フィンに言われ、フィオナは目を開けた。そこは先程までの森とは違い、薄暗い澱んだ空気が流れていた。瘴気が濃くなってきているようだ。


 フィオナは後ろを振り返り、ポツリと呟いた。


「ルイは大丈夫かしら。アレン様も早く追いついてくれると良いのですが」


「アレン様は少し時間がかかるかもしれませんね。拷問……いえ、少々教育の必要な相手でしたので」


「そうなの? まぁ良いわ。わたくしが一刻も早くお義兄様を助け出してみせるんだから」


 フィオナはフィンが何を言っているのか理解出来なかったが、クライヴの元へ早く行きたいが為、それ以上は聞かなかった。


「フィオナ様……」


 フィンが何かを感じ取り、フィオナを地面に降ろした。


「フィン?」


「ここから先、一人で行っていただけますか? 少々厄介なのが出てきました」


 フィンの見据える先に現れたのは、ユニコーンだった。サラサラの毛並みに真っ白でキラキラと輝く姿は何とも美しく、魔物なのに見惚れてしまいそうになる程だ。その姿を見ながら再びフィンが言った。


「見た目とは反対に、気性が荒くあの角はどんな物でも貫きます。少々手こずるやもしれません。フィオナ様、ご主人様を宜しくお願いします」


「分かったわ。フィンも後でちゃんと来るのよ」


「もちろんです」


 フィオナはその場をフィンに任せ、走った。出てくる魔物を薙ぎ払いながら一心不乱に走った。そして、ついに屋敷の門の前に立った。


「お義兄様、待っていて下さい」

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