第19話 秘書
時は流れて、俺は十五歳、フィオナ十四歳。つまり乙女ゲームの本編が始まる年だ。
本編が始まる前に、俺の学生生活の一年間を簡単に説明したいと思う——。
俺はゲームの舞台となるイーヴル学園に入学した。学園のイベントは日本と似ていてシンプルだ。
学期末試験、体育祭、文化祭、泊まりでの野外活動、球技大会の代わりに魔法大会がある。
攻略対象としては、クリステル、アレン、ステファンが在学中だが、今すべきことは何もない。この一年は、ただの学生として目立たず本来在るべき立ち位置、モブに徹しようと決めた。
そのはずだった。そのはずだったのに、そうは問屋が卸さない。それでも、最初は順調だったのだ。
——入学式の日、アレンから嫌がらせを受けるのではと警戒し、念の為、隠し芸を用意しておいたのだが無駄に終わった。
きっと、フィオナのおかげだ。アレンとフィオナが婚約した事が関係しているのだろう。
俺への敵対心は消えたのか、はたまた建前上喧嘩を売る行為はやめたのか定かではないが、何事もないに越したことは無い。
“二種類の魔力を持つ天才”が入学して来るという噂も最初の内はあったが、容姿がモブすぎて誰も相手にしなくなっていった。『ただ二つの属性があるだけじゃん』くらいのノリだ。
学園の授業は面白いし、剣術や魔法の実技も楽しくやっていた。
体育祭や文化祭においては、人生でもう一度体験出来るなんて思ってもみなかったので張り切った。それはもう青春を謳歌した。ステファンにドン引きされる程に。
順調だと思っていたある日、俺が一人ガゼボで寛いでいると、クリステルが話しかけてきた。クラスメイトではあるが、ほぼ挨拶しか交わさない程度の仲だ。
『ちょっと良いか? クライヴ・アークライト』
『なんでしょうか、クリステル殿下』
『大した話ではないのだが……兄上の婚約者の兄上だからな。いずれ、親戚となる。世間話でもどうかと思ってな』
世間話だと? 一国の王子と交わす世間話とか未知過ぎる。国の繁栄について? 隣国との交友関係? まさか戦争について……。
『今日は天気が良いなぁ。休みの日は何をしているのだ?』
普通だった——!
しかも内容も平和だ。縁側でお爺さんとお婆さんが仲睦まじくお煎餅をかじっているくらいに平和だ。
『剣の練習や授業の復習等ですかね……』
とまぁ、こんな感じで何故か一日に一回は話しかけられるようになったのだ。嫌がらせにも程がある。側から見たら友人関係のようにも見える。
これの何が駄目かって?
それは、皆も知っての通り、クリステルは超絶イケメンで尚且つ超目立つ。髪なんて燃えるように真っ赤っかだ。遠くからでも分かる。
第二王子が話す相手だ。周囲からは興味や羨望、嫉妬、妬み、様々な感情の視線を向けられる。ついたあだ名が『第二王子に気に入られた男』。
なんともネーミングセンスの欠片もないダサいあだ名だ。そして、それを知ったアレンはお怒りだ。
『お前はフィオナ嬢の兄ではないのか? 何故、俺ではなくクリステルに媚びを売る』
威圧が半端ない。確かアレンの属性は闇だ。後ろの黒い触手のようなものが俺を縛り上げてきそうで怖い。
『いえ、媚びを売った覚えは……』
『では、これから俺のそばにいろ』
『でも学年も違いますし……』
『そろそろ新一年生からも生徒会の役員を選出しようと思っていた頃だ。俺は来年生徒会長だから、お前は秘書をやれ』
えー、生徒会なんてしたら更に目立つじゃん。しかも秘書って。秘書……?
『生徒会に秘書なんてないですよね?』
『今作った。ありがたいと思え、授業以外は俺のそばにいられるぞ』
『……』
こうして、俺の平穏な学生生活は幕を閉じたのであった——。
そんなこんなで二年生に上がれば俺はアレンの下僕……秘書だ。
でも待てよ。アレンのそばに常にいると言うことは、ヒロインのアリスがアレンに近づくのを阻止できるのでは……?
悪役令嬢ならぬ、悪役令息をすれば良いのではないか? 行ける! これならフィオナが断罪されることなく事が運びそうだ。そして、アレンが卒業した暁には、晴れて自由の身。
再び楽しい学園ライフが待っている。ついでに恋なんてしちゃったりして。
待っていろよ、俺の青春!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます