第102話 結婚

 リーンゴーン……リーンゴーン……。


 教会では、祝福の鐘が響き渡った。それが合図かのように扉がパッと開き、純白のドレスを纏った新婦が真っ赤なバージンロードを父親らしき男性とゆっくり歩く。


 新婦が新郎の元へ着くと、二人は司祭と向き合う形で立った。


 司祭は新郎に向かって言った。


「病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、これを妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか」


「誓います」


 新郎が誓うと、司祭は新婦に向き直って同じ言葉を並べた。


「病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、これを夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか」


「誓います」


 そして、新郎新婦は向かい合い、新郎は新婦のベールを上げた。


「フィオナ、愛している」


◇◇◇◇


「結婚おめでとう」


「ありがとうございます」


 皆が結婚を口々に祝福してくれた。俺とフィオナは幸せオーラ全開で列席者に手を振った。


 そこにアリスとアルノルドがやってきた。


「結婚おめでとう。全然緊張してなかったわね」


「僕も感激しました! まさか花嫁姿と新郎姿が見られるなんて。おめでとうございます!」


「ははは……」


 俺は笑ってその場をやり過ごす。


 実は結婚式はこれで二回目だ。言わずもがな、一回目はアレンと、そして二回目がフィオナと。


 ――フィオナとアレンが決闘をした。負けた方が俺を諦めるという、俺の意思を完全に無視した決闘を。


 チートすぎる二人が決闘をした結果……勝敗がつかなかった。


 丸三日闘い合ったがお互いピンピンしていた。だが、その二人の背景は悲惨なことになっていた。このままでは国が滅ぶのではないかと心配する程に。


 俺が決闘を中断するよう声をかけようとした矢先、戦闘モノではあるあるの出来事が起こった。


「やりますわね。アレン様」


「お前もな。フィオナ」


 フィオナとアレンは突然二人で手を取り合った。しっかりと。


「わたくしはアレン様を認めましょう。二人でお義兄様を守っていきますわよ」


「あいつは危なっかしいからな。お前もいれば安心だ。そして、二人でトロトロに可愛がってやろう」


「ええ、わたくし達なしではいられない程に……」


 二人が同時に俺の方を見て、ニヤリと笑った。その顔は正に狂気そのものだった。


◇◇◇◇


 結婚式から五年後、俺にも三歳になる娘がいる。


「お庭に行きましょう」


「お庭で何しようか?」


「お花の冠つくりたいですわ。お父様。あ、ごめんなさい、お母様」


「はは……どっちでも良いよ」


 俺は隔日に父親から母親になる。娘が混乱するからやめたいのだがアレンが許してくれない。フィオナに言っても……。


『女性姿のお義兄様も素敵』


 と言って話にならない。


「あ、お父様も一緒に行きましょう」


 娘がアレンを見つけて庭園に誘うと、満面の笑みでこちらにやってきた。アレンは家では父親だが外では俺の義兄なので伯父になる。何ともややこしすぎる家族構成だ。


「アレン様、お花の冠作りたいんですって」


 アレンが娘の目線までしゃがみ込み、頭を撫でながら言った。


「そうかそうか。それにしても、お前はクララそっくりだな。将来変な男に引っ掛かるなよ」


 そう、娘の容姿はクララをそのまま小さくしたような美少女だ。俺も可愛くてしょうがない。将来が心配だ。それにしても変な男というのは、アレンのような人ということだろうか。


「クララ、俺をそこらの害虫と一緒にするな」


 アレンの読心術は健在だ。迂闊に余計なことを考えたらすぐに怒られる。王子ではなくなったので不敬罪で罰せられることはないのだが、お仕置きと言う名の夜の営みがそれはもう激しいことになる。


「クララ、そんなに良かったのか」


「い、いえ……気持ちは良いですが……じゃなくて、子供の前でやめてください!」


 娘に悪影響なので、娘の手を引いて庭園まで歩いた。すると、フィオナが庭園でフィンとお茶をしていた。


「お母様!」


「あら、おにぃ……お義姉様も、皆さんお揃いなんですの? わたくしだけ仲間外れなんて酷いですわ」


 フィオナは俺の事を相変わらず『お義兄様』と呼ぶ。今はお義姉様だが。俺もそれで慣れていたので今更名前で呼ばれたら恥ずかしすぎる。そんなことより……。


「体調は大丈夫? つわりが酷かったのでしょう? 私が産んであげれられたら良かったのですけれど」


「大丈夫ですわ。わたくしとアレン様で決めた事ですので、お義姉様は気になさらないで」


 実はお腹の中にはアレンとフィオナの子がいる。アレンの遺伝子が受け継がれないのは勿体無いと漏らした俺の発言をフィオナが聞いており、代わりに産むと決めてくれたのだ。


「赤ちゃん、男の子かな? 女の子かな? 楽しみねー」


 娘がそう言いながらフィオナのお腹を嬉しそうに撫で撫でしている。フィオナもお腹を撫でながら言った。


「レナに聞いたら男の子だそうよ。アレン様似かしらね」


「どっちに似ても超絶イケメンなのは間違いないね。羨ましい」


 そんなこんなで、俺の未来予想図とは随分とかけ離れた家族構成になってしまったが、今が幸せなのでハッピーエンドということにしておこう。


 これから産まれてくる男の子に、俺の娘が執着されるのはまた別のおはなし。


               おしまい。

     

————————————————————

最後までお付き合いありがとうございました。

番外編もたまにヒョコッと投稿しようと思いますので良かったら引き続きお楽しみ下さい。

★もつけて頂けたらモチベ爆上がりですので、宜しくお願いします。

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