第101話 恋愛相関図②
本日は、恋愛相関図の描きかえパートⅡだ。
「アレン様、お話があります」
「どうした? 畏まって。告白でもしてくれるのか? それなら大歓迎だ」
アレンに見つめられ、一瞬怯んでしまう。だが言わなければ……。
「いえ、そのことなのですが……」
「お前は死にたいのか」
「へ……?」
アレンは憂いを帯びた瞳で俺を見つめた。その顔は何とも儚げで色っぽく、ついつい見惚れてしまう程だ。見惚れているとアレンが口を開いた。
「これ以上俺を突き放さないでくれ。俺はお前に何をするか分からない」
「アレン様……」
だめだ、いつものアレンのペースに飲まれてしまう。俺はフィオナが好きなんだ。アレンではない……はず。アレンでは……。
アレンの顔を見ていると、分からなくなってきた。
いやいやいや、騙されてはいけない。仮に万が一にも俺がアレンを好きになったとしても、どっちか選ばなければならないのであれば俺はフィオナと未来を築きたい。
そうだ。しっかり伝えなければ。俺の未来の為に――。
◇◇◇◇
「おはよう」
「おはようございます、義兄上。ほら、フィオナも」
「……おはようございます。お義兄様」
俺とフィオナに新しい家族が増えた。
――俺は恋愛相関図の描きかえに挑んだがアレンはやはり無理だった。というより、既に時遅し。
アレンのペースに飲まれそうになったが、しっかりと話し合えば分かってくれる。そう信じていた矢先、父に呼ばれた。何故かアレンも一緒に。
そして家族四人とアレンが揃うと、父が言った。
『今日からアレン殿下がお前達の義兄になるからよろしく』
俺とフィオナは開いた口が塞がらなかった。
結婚はフィオナに譲るから義兄弟として俺と生涯一緒に暮らすことを父と契約したそうだ。それも、いつぞやの本人の意思を無視した、契約を破れば死が訪れるという契約書で。
いつの間にそんな契約をしたのかと思えば、俺がアビスの元から人間界に戻った日らしい。確かに二人が別室に行った記憶がある――。
「わたくし、やっぱり納得行きませんわ!」
「そんなこと言ったって、既に養子縁組も組まれているし、俺とフィオナの結婚も認めてくれているんだ」
フィオナがアレンに対して不満を漏らして、俺が宥める。それが最近の日課だ。
「そうですわ! 国王陛下やクリステル様に言ってもらいましょう。流石に王子様が伯爵の養子なんてありえませんわ」
フィオナがそう言うと、アレンが横から話に入ってきた。
「それは無理だな。あのクソ親父はもはや俺の言いなり、下僕にすぎない。クリステルも了承済みだ。それに、クリステルに王位継承権を譲って、俺は晴れて自由の身だ。何をしようが構わない」
「だからって、アレン様をお義兄様だなんて呼びたくありませんわ」
「まぁ、呼び方は何でも良い。俺とクライヴどちらを呼んでいるのか分からんしな」
「そういう問題ではないのです」
しゅんとしているフィオナをよそにアレンは俺に言った。
「そんなことよりクライヴ、俺は義父の後継を務めるから好きな事していいぞ」
「え、でも……」
「やりたいことがあるのだろう。前に話していたじゃないか」
「そうなのですか? お義兄様」
――確かに話した事があった。俺は前世ではサラリーマンだったが、本当は教師に憧れていた。今世でもその憧れは消えていない。だが、貴族の長子に生まれたら後を継ぐ他ない。
半ば諦めていた夢をポロッとアレンの前で俺は話した。
まさか、その夢を叶えさせてくれる為に敢えてあんな回りくどい契約なんて交わしたのだろうか。フィオナとの結婚は認めてくれているし、義兄弟として生涯暮らしたいと言うのは俺がその夢を叶えてしまったら後継がいなくなるから。
アレンは自分を犠牲にしてまで俺のことを……。
そんな考えを巡らせていると、何やら再びアレンとフィオナの喧嘩が始まっていた。
「アレン様、わたくしとお義兄様の仲をどこまで邪魔する気ですの?」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。世継ぎの為にフィオナとの結婚は認めたが、それさえ終えれば俺がクライヴを可愛がってやろう」
うっとりとした瞳でアレンに見つめられ、ゾッとする。先程の考察が間違いではないことを祈りたい。
「俺たち義兄弟、ですよね……?」
「関係ないだろう。お前とフィオナだって義兄妹なのに一線を超えたじゃないか」
それを言われたら何も言えなくなる。事実だから。それでもフィオナは俺とアレンの間に入って抗議する。
「お義兄様、騙されてはいけませんわよ。わたくしはアリスとのことで人に危害を加えるのはやめようと思いましたが、今回ばかりは致し方ありません。アレン様、決闘を申し込みますわ」
「フィオナ、何を……」
「良いだろう。負ければ潔く諦める。それで二言はないな?」
「はい」
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