第100話 恋愛相関図

 政界が騒がしい。やはり、未知の世界である魔界との国交について賛否両論あり揉めているようだ。


 しかし、アレン自ら魔界へ出向いたことで説得力が増し、尚且つアレンが国王を脅……説得したことで前向きな声は少なからず増えている。


 ちなみに、魔界の方はいつでもウェルカムだそうだ。国交が結ばれるのも時間の問題だ。


「でも、良いんですか? 国王陛下を見逃して。仮にも父親に裏切られていたんですよ」


「良いんだよ。あ、クライヴ、そこ間違ってるぞ。ここはこうやってだな……ほら、こうするんだ」


 アレンはノートに書き込みながら間違いを丁寧に解説してくれた。


 そう、今はアレンに補習をしてもらっている真っ最中。結局フィオナとアリスもアレンに教わったが、二人の補習はあっという間に終わってしまった。今はアレンにマンツーマンで教えてもらっている。


「アレン様は優しすぎますよ」


 国王が人間界の侵略に手を貸していたことは闇に葬られた。その事が俺はやはり許せない。アレンはそんな俺に平然と言った。


「まだ言ってるのか。だって、死ぬまでこき使えるんだぞ」


「は?」


「俺は表に出るのは苦手なんだ。裏で操る方が断然楽だ」


「さっきの優しいは撤回しますね……さぁ、勉強勉強」


 俺は、参考書に現実逃避した。

 

◇◇◇◇


 勉強が終わると、俺はステファンの元へ訪れた。


 クララの正体を明かすために。


 ――ジャンが譫言のように『クララ』と言っていたというクリステルの発言により、ステファンのクララ熱が再発してしまった。


 しかも、一人でジャンの元へ訪れて背格好や特徴まで聞いていた。同一人物だと判明したステファンは何故かジャンと共に血眼になってクララを探しているらしい。


 俺がクララにならなければ絶対にバレはしないだろう。しかし、いつも冷静沈着な友人がこうも豹変して一人の女性を追い求めている姿は見ていて哀れに思えてくる。


 そこで俺はこの機会に自分の未来の為、俺自身のハッピーエンドを迎える為に、この滅茶苦茶な恋愛相関図をシンプルな物へ描きかえることにした。ジャンは手紙でも送るとして、まずはステファンから――。


 以前クララになってキッパリ振ろうとしたが失敗に終わった。なので今回は男のまま告白する予定だ。ちなみに、アレンには許可ももらった。


「クライヴ、前触れを寄越して来るなんて何かあったのか? 珍しい」


「伝えたいことがあって」


 ステファンの部屋に通された俺は、部屋に入るなりステファンと向き合った。俺の方が背が低い為、ステファンを見上げながらしっかり目を見て言った。


「怒ると思うが聞いて欲しい。俺がクララだ」


「は?」


「だから、お前が探しているクララは俺だ」


 二回言ってみたがステファンはポカンとしている。無理もない、俺自身ですらいつも疑う程に今の自分とクララでは顔が違いすぎる。


 俺は頭を下げて謝った。


「本当にごめん。ステファンを騙したかった訳じゃない。嘲笑っていたわけでもない。言い出せなくて……ごめん」


「クライヴ、頭を上げろ。そんな訳ないだろ」


 顔を上げて見たステファンの顔は、まだ信じていないようだった。


「占いの館に行った時、本当はクララとしてお前を振ろうとしたんだ。俺だと知ったら悲しむと思って」


「……」


「あれがクララになる最後のはずだった。でも、ジャンの魔法陣について俺が情報盗んできたことあっただろ。あれ、クララになって行ったんだ。ジャンはクララを慕っているから」


 ステファンは、怒ったような悲しいような何とも複雑な表情を浮かべている。そんなステファンに再度謝った。


「本当にごめんなさい。殴られるのも覚悟の上だ」


「クライヴ、それは……それは全て事実なのか?」


 ゆっくり頷けばステファンの手が上がった。殴られるかと思って固く目を閉じた。次の瞬間、ふわっと抱きしめられた。


 俺は驚きの余り声が出ずにいると、ステファンが言った。


「本当だ。この感じはクララだ……。良かった、無事で」


 確かめるように抱きしめられた後、ステファンが俺を離した。


「殴らないのか?」


「殴るわけないだろう。正直、悔しいし、悲しいし、それに怒りも覚える。初めて心から結婚をしたいと思えた女性だったから」


「ごめん」


「だけど、媚薬を飲まされてそのまま消えたから心配してたんだ。手紙は来たが、それ以上の生存確認は出来なかったから」


「ごめん」


 ステファンが何かを誤魔化すように俺の頭をクシャクシャとかき混ぜてから言った。


「僕の初恋を終わらせてくれてありがとう。男でも女でも関係ないと言ってやりたいが、公爵家の後継は僕しかいない。潔く諦めるよ。それに相手がフィオナとアレン殿下じゃそもそも勝ち目はない」


「ステファン……」


「その代わり、一番の親友だ。それは誰にも譲らない。たとえそれが悪魔アビスでもね」


「ありがとう」


 ステファンがふと思い出したように言った。


「レナの占いは当たっていたな」


「そうかもな」


『隠し事を打ちあける時、二人は強い絆で結ばれる』


 レナは占いでそう予言した。ついつい恋愛のことだと思い込んでいたが、友情を深める意味合いだったのかもしれない。


 こうして恋愛相関図の一部の描きかえに成功した。


 次はアレンだ――。

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