転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されてます。
七彩 陽
第一章 学園入学まで
第1話 この茶番はいつまで続きますか
「俺の人生つまんなすぎ」
今日も上司に怒られ、残業。毎日同じことの繰り返し。身体的にも精神的にも疲弊し、視界が狭くなっていく。
「やべ、ここ階段――」
意識が遠くなりながら階段を転げ落ちる。
これ詰んだな。俺の人生平凡すぎ。いや、平凡以下のただの社畜だったな。
俺は天国に行けるかな、悪いことはしていない――多分。
あ、でも親より早く死んだらそれだけで地獄行きとか聞いたことがある。痛いこと嫌いなんだよな。
そんなことを考えながら意識を手放した。
◇◇◇◇
「ここが地獄か?」
目を開けると、見たことのない夜空のようにキラキラ輝く豪奢な天蓋。そして、ふかふかの布団の中。
「生きてたのか? しぶとい身体だ」
それにしてもここは何処だ?
豪奢なシャンデリアや高そうな家具。病院の特別室? ナースコールはどこだ。ナースコールを探していると小さい鈴があった。
「これで呼ぶのかな?」
チリン――。
「どうなさいましたか?」
すぐに執事服を着た男性がやってきた。
「えっと、ここは何処の病院ですか?」
「何を仰ってるのですか。こちらはクライヴ様の自室ではありませんか」
「……」
「ま、まさか、頭を打った衝撃で?」
「頭? まぁ、打ったんだと思います。でもクライヴって誰?」
「すぐに医者を呼んで参ります!」
男性は急いで部屋を出た。
それより、あのコスプレはなんだ。妙に顔が良かったから女子からは絶大な人気なのだろう。
考えを巡らしていると、部屋に鏡があったのでふと覗いてみる。
「あ、こんにちは」
鏡の中の子どもに挨拶する。
鏡の中の子どもって何?
――俺?
「はぁ? 誰だよこれ? 全然知らない顔」
そこにはサラサラの栗色の髪に空のように蒼い瞳、整ってはいるが普通。どこにでもいそうな顔。中の中って感じ。
整形か? 整形なのか? 前に本で読んだことがある。交通事故に遭って顔が滅茶苦茶になった人がせっかくだからって自分の好みに整形した話。
両親はそんなに俺の顔が気に入らなかったのかと溜め息を吐く。
いやいやいや、整形したにしては瞳の色が変わったり体型まで小さくなるなんておかしい。
トントントン。
自問自答していると扉が開く。そこには、さらっさらの眩く綺麗な銀色の髪、やや吊り目のアクアマリンのような澄んだ青の瞳をした小さな女の子が立っていた。
……天使! ここは天国だったのか!
「おにいさま。大丈夫ですの? わたくしのせいでごめんなさい」
お兄さま? てことは、妹?
天使……こんな可愛い子が俺の妹。神様、仏様、女神様、俺は前世で何か徳を積んだのでしょうか……。
こんな妹欲しかった!
でも、全然似ていない。俺の顔、別に不細工ってわけじゃないが普通。完全にモブ顔。月とすっぽん、雲泥の差、天と地ほどの差がある。
これはあれか、ドッキリか。てってれーって効果音が聞こえてくるのだろう。
「お兄さま? わたくしのこと分かりますか? フィオナです」
「えっと……妹?」
「はい! わたくしのこと嫌いになったりしていませんか?」
うぅ……。
うるうるの瞳で上目遣いされて、軽く肋骨を一本持っていかれた気分だ。
「嫌いになんてなるわけないだろう」
こんな愛らしい美少女を嫌いという男がいたら『頭大丈夫か』と問いたくなる。
フィオナは安堵して言った。
「よかった。お兄さまに嫌われたら、わたくし生きていけませんわ」
いやいや、そんな顔でそんなこと言われたら死んでも良い。この世に悔いはない。そんな話をしていたら部屋をノックされ扉が開く。
ほら来た。大きな板持って、てってれーだよ。良いドッキリだったよ。主催者さんありがとう……。
「失礼致します。医者を連れて参りました」
「いや、まだ続くのかよ!」
◇◇◇◇
「頭を打ってはおりますが、命に別状はないでしょう。ですが衝撃で記憶が飛んでいるようです」
「治るのですか?」
医者の話を聞き、フィオナが心配そうに聞いた。
「分かりませんが、混乱しているようなので少し休まれた方がよろしいかと」
「わかりました。お兄さま、しっかり休んでくださいね」
「う、うん……」
いつまで続くんだこの茶番は。疲れてきたし、執事にこっそり聞いてみることにした。
「これいつ終わるの?」
「と、申しますと」
「このドッキリ。派手にリアクションするからさ、そろそろ終わりにして良いぞ」
「えっと……あ、そうですね。フィオナ様もお疲れでしょう。夕食まで自室で休まれては如何ですか?」
「そうですね。そうしますわ」
可愛い顔で手を振られ、医者と共にフィオナも退室していった。俺が医者に帰って欲しいのだと執事は勘違いしたようだ。
「て、そうじゃない! なにこれ。終わりないの?」
執事は困った顔で俺を見ている。
ああ、何となく分かっていたさ。これが茶番ではないことを。ただ信じたくなかった。だって、死んだって認めたくなかったから。
ということは、やはり俺は転生したということだろうか。だから身体が小さいのか。輪廻転生にしては前世の記憶はあるが今世の記憶が全くない。
とりあえず情報収集をすることにしよう。
「あの、記憶が曖昧で……この国のことや家族のこと、身の回りのことを教えてくれないかな」
「クライヴ様……」
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