第2話 決意
ここはフランセーン王国。
クライヴ・アークライト。それが今世での俺の名前。
貴族階級があり、俺は伯爵家の長男として誕生し現在五歳。実の母は俺を産んですぐに他界。
昨年再婚した後妻の連れ子がフィオナだ。俺のひとつ歳下の義妹にあたる。どうりで似ていない訳だ。
そして、なんと魔法が使える世界なんだって。ファンタジー!
貴族は代々魔力を受け継いで世界の発展に役立ててきたんだとか。
だから、俺にも魔法が使えるらしいが、幼い頃は魔力量が不安定な為、七歳頃にならないと使えないらしい。
「大体分かった。ありがとう、ルイ」
「いいえ」
ルイ、これが執事の名前だ。
俺が産まれる前からこの屋敷で働き、俺が産まれてからは専属の執事をやってくれているらしい。
「だが、どうしてフィオナは自分のせいでと謝っていたんだ?」
「それは、クライヴ様を喜ばせようとお嬢様がお花をお摘みになったんです。それを渡しに行くところまでは良かったのですが、花の中に青虫が紛れ込んでいたのです」
「それで何故頭を打つんだ?」
「クライヴ様は虫が大の苦手なので、見た瞬間に卒倒いたしました」
「……」
間抜けにも程がある。穴があったら入りたい。
「夕食までしばらくお時間ありますが、お茶でもお持ち致しましょうか」
「そうしよう。それまで少し一人で頭の中整理しておくよ」
「承知致しました。何かあればそちらの鈴を鳴らしてお呼び下さいませ」
◇◇◇◇
「容姿はモブだけど、高貴な家に産まれて将来安泰。人生イージーモードかもしれない」
前世の人生が終わったと思うと辛いが、今の状況を改めて振り返ると悪くない気がしてきた。
可愛いフィオナもいることだし、言う事なし。でも何か引っかかるんだよな……。
フランセーン王国、フィオナ・アークライト、悪役令嬢……?
は? 悪役令嬢?
『先輩、これ私がハマってるゲームなんですけどね、第二王子のルートがまじ好きなんですよ』
『お前こういうのするんだ』
『息抜きに良いんですよ。悪役のフィオナって実は可哀想な子で——』
思い出した……前世で職場の後輩がやってた乙女ゲーム。
『TRUE LOVE~君だけを見つめて~』
舞台はフランセーン王国。中世ヨーロッパをモチーフにしており、ファンタジー要素も含まれている。
主人公アリスがドキドキワクワクな学園生活を送りながら攻略対象と真実の愛を見つけていくゲーム。
攻略対象は四人、正統派の第二王子クリステルと、わんこ系幼馴染のアルノルド、女たらしのステファン、ヤンデレ系の第一王子アレン。
第二王子クリステルの婚約者フィオナ・アークライトは悪役令嬢として登場。
全ルートは分からないが、クリステルルートでは婚約者がヒロインと仲良くなっていくのを見て、嫉妬に狂ったフィオナがヒロインに嫌がらせをして二人の仲を切り裂こうとする。その悪事がバレてフィオナは断罪される。
——確かこんな乙女ゲーム。
「マジか! うわー、もっとちゃんとあいつの話聞いときゃ良かった」
まさか自分が身をもって体験するとは。くだらないと思って、右から左だったよ。俺の馬鹿!
だけど、せめて転生するならイケメンの攻略対象じゃないの? なんでこんなモブ顔? 執事のルイの方が何倍も良い男なんですけど。
ここがあの乙女ゲームの中とは限らない。それでも仮にフィオナが悪役令嬢だった場合、あの可愛い俺の義妹が国外追放、一家没落、牢獄送り、最悪死罪。
考えるだけでもゾッとする。
イベント等、乙女ゲームの内容はまともに分からないが、俺が義兄としてフィオナの将来を守ってみせる! そう、決意した。
◇◇◇◇
長いテーブルに真っ白なテーブルクロス。周りには使用人が数名が立っている。
椅子を勧められ、座ると隣には既にフィオナがちょこんと座っている。
「おにいさま、体調はよろしいのですか? お花を摘む時には気をつけますね」
「う、うん。ありがとう……」
恥ずかしい。虫を見ただけで卒倒する男って、頼りないお義兄ちゃんだよね……。
「あ、お父さま、お母さま!」
「待たせたね」
白髪交じりの栗色の髪を無造作に分けたフツメンの男性と、陶器のような白い肌に絹のようにさらさらとした煌めく銀色のロングヘアにラピスラズリのような瞳の美しい女性が仲睦まじそうに入ってきた。
実母の顔は知らないが、俺は完全に父親似だとすぐに分かった。
政略結婚って良いな。こんな美人な奥さんと結婚出来て。そんな失礼なことを考えていたら父が俺の方を向いた。心の声が読まれてる!?
「クライヴ、聞いたぞ。記憶がないのは本当なのか?」
良かった、読まれていなかった。
「はい、身体は元気なのですが」
「まぁ、心配ね。あなたどうしましょう」
「とりあえず食事をしながら考えようか」
「そうね」
それぞれ席に座り、食事を始める。体が覚えているのか前世の記憶のおかげか、テーブルマナーは問題なさそうだ。
……うっま!!
このお肉ジューシーで口の中で蕩ける。こんな食事が毎日食べられるのかと思うと幸せ。
舌鼓を打っているとフィオナが心配そうな顔で聞いてきた。
「おにいさま、なんにも覚えてないの? わたくしのこと嫌いじゃない?」
「ごめんな……でもフィオナは大好きだよ。俺の為にお花摘んできたんだよね? こんなに可愛い義妹嫌いになれる訳ないだろ」
「お父さま、お母さま、わたくし今のおにいさまの方が良い!」
……え? 前の俺ってまさか最低なやつだったの?
ルイの方をチラリと見ると笑顔で頷いている。
俺ってば何してるんだ! こんな可愛い義妹に酷いことするなんて。
嫉妬か? 義妹は母似で絶大な美貌を持つのに対し自分はモブ顔。言わずもがな、誰もが義妹を可愛がるだろう。
嫉妬に狂った義兄に虐められて性格歪んで悪役令嬢……ある。大いにある。俺のせいじゃないか!
もしかして、今回の青虫騒動はフィオナの意趣返しだったりして……。
素直な良い子に見えるのに既に性格が歪み出しているのか? まだ四歳、修正が効くかもしれない。
「そうは言ってもな。クライヴが困るだろ、なぁ? 精神の類は教会に行って診てもらえばどうにかなるかもしれんぞ」
「俺……いえ、僕は五年分の記憶よりこれからが大切だと思います。一から勉強し直して立派な後継者になれるよう精進致します。そして、フィオナを砂糖よりも甘くとろっとろに可愛がっていくつもりです!」
「お、おう。凄い心意気だな。最後の方は良くわからんが様子をみるか」
「あらあら」
「やったー! おにいさま大好き」
ひとまず話がまとまった。これから、義妹溺愛生活が始まるのだった。
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