第3話 才能が皆無

 あれから八年後。


「お義兄さま。お茶にしましょう」


「もうそんな時間か」


 剣術の稽古を中断し、汗を拭きながらフィオナの元へ向かう。


 これがイケメンなら黄色い声が聞こえてきそうだが、なんせ八年経った今もモブ顔は変わらず顕在だ。


「今日もフィオナお手製のお菓子が食べられるのかな?」


「はい、今日はスコーンを焼いてみましたの。甘い蜂蜜をたっぷりかけて召し上がれ」


 んぐっ……極上スマイルに一撃喰らわされて一瞬フリーズする。いかんいかん、我が義妹に一瞬エロい妄想をしてしまった。


 それにしても歳を増すごとにフィオナは美貌に磨きがかかっている気がする。


 今日のフィオナは、腰くらいまで伸びたきらきらに輝く銀髪をふんわり三つ編みにし、フリルのたくさんついたたんぽぽのような黄色のドレスを着ている。アクアマリンのような瞳はキラキラと輝き宝石のようだ。


「たんぽぽの妖精が現れたのかと思って思わず見惚れてしまったよ」


「もう、お義兄様ったら。私先月十二歳になりましたのよ」


 思わず頭を撫で撫でしていると、ぷくっと頬を膨らませ怒っている。


 そんなフィオナが可愛すぎる。デレデレに甘やかしているので、義兄妹仲は良好に思える。


 ゲームのように気の強い性格ではなく、どちらかというと謙虚で大人しい、正に淑女だ。


「そんなことよりお義兄様、剣術も素晴らしいですが、魔法の方はどうなんですの?」


「ああ、少しだけど上手く扱えるようになってきた気がするよ」


 そう、俺はもう魔法が使えるのだ! 七歳の誕生日に教会で確かめてもらい、俺の適性は風と氷、フィオナは水だと分かった。


 格好良い詠唱とかするのかと期待していたのだが、この世界では無詠唱で、とにかくイメージらしい。


「見ててごらん」


 手をテーブルの方にかざして、全身に魔力を感じながら小さい氷をイメージしていく。


 ……ちゃぷん。


「お義兄様凄いですわ! 氷ですわ! サイズが以前より大きくなりましたわね!」


「まだこんな小さいのしか出せないんだけどね、頑張るよ」


 フィオナはこの小さな氷ひとつで絶賛してくれた。だがしかし、これはものすっっっごくショボいのだ。


『二つも適性があるなんて、うちの子は天才だ』


 なんて言われていた日々が懐かしい。

 

 これが異世界転生した俺のチートか! この道を極めれば上手くいくんだな! と、それはもう期待した。


 そして撃沈した……才能が皆無だった。


 俺の歳だったら地面を数メートルくらい凍らせるなんて余裕らしい。風に至っては未だ全く使えない。


 フィオナは悪役ポジのおかげもあるのか、魔力量も多く扱いも上手い。


 今では水柱が六本も上がる程だ。いつか水龍とか出せるんじゃないかと思う。


 それに比べて俺は……ショボい義兄でごめんよ。


 こんな俺を馬鹿にしないフィオナは出来た義妹だよ。悪役なんて程遠いよ。


 そんな俺でも魔法以外だと成績が良い。前世から座学は得意な方だったし、何より異世界ということで日本で学ぶものとはまた違って新鮮で楽しい。


 剣術もひたすら鍛錬し、騎士を目指せるくらいに上達している。


 父上は宰相であり、その後継なので剣術はあまりいらないのだが……筋肉は裏切らないのさ。


 鍛えたといっても、ごっつい体つきになるのは嫌だったので鍛え方を調整しながら、いわゆる細マッチョになった。


 そして何より、フィオナを守るためには鍛えていて損はない。魔術師みたいに魔法で闘うのを夢見たこともあるが、儚く散った。


 フィオナお手製のスコーンを食べながら、冷たくなった紅茶で一服していると、フィオナが言った。


「そうそうお義兄様。今度、王家主催の大規模なお茶会があるそうよ」


「へー。珍しいな」


「表向きは貴族間の交流ですけど、実は第二王子様の婚約者候補を探す目的なんですって」


 思わず盛大に飲んでいた紅茶を吹いてしまった。


「大丈夫ですの!? お義兄さま?」


「ごめんごめん、大丈夫」


 あははと笑ってごまかしたが、これは一大事だ。


 すっかり忘れていたが、確か第二王子とフィオナの婚約って、お茶会がきっかけだった気がする。


  フィオナが一目惚れをし、不敬にも関わらずいきなり婚約を申し込むのだ。第二王子もフィオナの強気なとこや堂々とした立ち居振る舞いを見て気に入ったとか……。


 フィオナの性格はゲームとは違うが、万が一にも婚約してしまったら、悪役令嬢まっしぐらではないか。絶対に阻止せねば!


「フィオナ、その茶会は欠席しよう」


「え? 無理よ。もうお母様が出席の便りを出したもの。それに王家主催のお茶会なんて断れないわ」


 駄目か……ならば俺も同伴して阻止するしかない! フィオナからは一歩も離れない! 

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