第21話 出会いイベント短くない?

 目の前にはヒロイン、アリスが立っている。


「これは、何とも驚きだ。吸い込まれそうなピンク色の瞳に、薄い桃色の髪は桜のように可憐で美しい。まるで春の妖精のようだ」


 ステファンの特技、美辞麗句が並べられた。


 それにしても本当に美しい。さすがヒロイン。これは誰もが惚れてしまうのも頷ける。


「あ、ありがとうございます!」


 アリスは赤面してお礼だけ述べて走り去った。


 あれ? 終わり?


 もっとこう、見つめ合って頬を染めたり、一言二言あるのかと思っていた。お互い自己紹介すらしていない。


 ステファンとの出会いイベントはあっさりしていたが、現実だとこんなものか。


「ステファン、今の子どう思う?」


「珍しいピンク色の髪色であったな。今まで見たことがないから新一年生なのだろう」


「それだけか?」


「それだけ……とは?」


「なんかあるだろ。ほら、可愛いとか」


 ステファンは少し悩んで応えた。


「整った顔はしているとは思うが、スフィアやフィオナの方が可愛いだろう。髪色も珍しいが人それぞれ個性があるしな」


「そ、そうか」


 ステファンの表情もしっかり観察するが、照れ隠しは……してなさそうだ。全くもって興味がなさそうに見える。好感度がまだ低いからか? 


 この先のイベントで変わってくるのだろうか。


◇◇◇◇


「フィオナ大丈夫かなぁ」


 教室に着いた俺は席に座って溜め息を吐いた。


 一年生は体育館で入学式を行った後、学園内を案内される。その間、上級生は教室でHRをすることになっている。


 入学式早々に問題が起こるとは思っていない。だが、可愛い義妹が下心丸出しの男子から、いやらしい目つきで見られていると思うと……。


「はぁ……」


「クライヴ、妹が可愛いのは分かるが心配しすぎだ。ああ見えてフィオナはしっかりしている」


「そうだけど」


 ステファンが後ろの席から声をかけてきた。


 ちなみに、席順は成績順だ。首席はクリステルで二位が俺、ステファンが三位。こう見えて座学は得意なのだ。


 ガラガラガラ。


「はい、出席とりまーす。皆座って座って」


 担任が教室に入ってきたので他の生徒も皆席に着いた。


 担任は去年と変わらず、イレーナ先生。童顔で大きなメガネが印象的。見た目は二十歳前後だが、年齢不詳。胸も、たわわだ。


 余談だが、イレーナ先生は俺の直球ドストライクだ。俺がステファンだったなら、すぐさまイレーナ先生を口説きに行くところだが、自分の顔は自分が良く知っている。


 禁断の女教師×男子生徒憧れる……。


「今日は委員会と係を決めるので、午前中はホームルームにしまーす」


 ふしだらな妄想をしていた俺は、イレーナ先生によって現実に戻された。


 委員会か……去年は体育祭実行委員になったので、今年は何をしようかと考えていると、周囲からヒソヒソ声がする。


「クリステル様は何にするのかしら」


「一緒の委員会に入れないかしら」


「私はステファン様が良いわ」


「あそこの二位の席いらないのよ。お二人の並んでいる姿を拝見したいわ」


「ほんと、空気読みなさいよね」


 何故、俺はディスられている。どさくさに紛れ込ませれば気付かないと思ったら大間違いだ。


 前後の美形と俺とでは、月とすっぽん、雲泥の差だ。それは認めよう。だが、隣のこいつや、後ろのあいつなんて俺と対して変わらないモブだ。何故俺だけがこんな言われよう。


 見ていろよ。この二位の座は決して誰にも譲らない。一位にも三位にもならず、必ず二位を勝ち取ってみせる。


 お前らは一生クリステルとステファンの並んだ姿なんて拝めないようにしてやろう!


 馬鹿げた闘志を燃やしていると、クリステルが挙手をした。


「先生、私はクラス委員に立候補する」


「クリステル君はクラス委員ね……と」


 イレーナ先生が黒板に書き留めると、クリステルがもう一度挙手をした。


「もう一人はクライヴ・アークライトがやります」


「クライヴ君がクラス委員……と、他の人はどうしますか」


 え? 俺?


 いやいやいや、授業が終わればアレンの下僕……秘書だし、アリスの観察もある。普通に期間限定の文化祭実行委員とかが良いんだけど。


「あ、先生。俺違うのが……」


 ゾクッ……。


 何やら威嚇されているような。悪寒までする。恐る恐る周囲を見ると、クリステルとステファン以外の生徒が俺を睨みつけている。


 そして気のせいか『クリステル様の発言を無下にするなよ』『絶対断るなよ』『羨ましいな、おい』『断れば末代まで呪うぞ』と、怨念まで聞こえてくる始末。


 正に蛇に睨まれたカエル状態だ。


「クライヴ君、違うのにする?」


「いえ、先生。クラス委員やります。やりたいです。是非やらせて下さい」


 俺は泣く泣くクラス委員をするハメになってしまった。ついでに、周囲の視線も穏やかな物へと変わった。

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