第22話 ヒロインも転生者
時は少し遡り、ステファンとの出会いイベントを済ませた後の出来事――。
「はぁ、アルノルドはどこに行っちゃったのかしら」
ピンクの髪をした少女アリスが、学園内を歩きながら一人呟いた。
「それにしても、私が歩くとこ歩くとこ、どこへでも現れるわね。疲れるわ」
と、アリスが溜め息を吐いていると背後から声をかけられた。
「アリス、やっと見つけた! すぐいなくなるんだから」
「それはこっちのセリフよ、アルノルド! もうすぐ入学式始まっちゃうじゃない」
「ごめん、ごめん」
アルノルドと呼ばれる男子生徒は、舌をペロっと出して謝った。
「私は、とにかく平穏に学園生活を楽しみたいの。ただでさえ目立つ容姿なんだから、遅刻なんてして目をつけられたくないわ。行くわよ」
アリスとアルノルドは、足早に体育館を目指した。
――体育館に入ると、中は既に新入生が整列していた。アリスとアルノルドも誘導され、列に並ぶ。アリスが周囲を眺めていると、綺麗な銀髪の少女と緑の髪の少女を発見する。
(あれはまさか……。いや、でもあの二人に接点はないはず。それに、雰囲気も違う気がする)
アリスは二人の少女が気になり、二人の会話に耳を澄ました。
「それでね、お義兄様ったら……」
「まぁ、ではフィオナ様が?」
(フィオナ! でも、やっぱり何かが違うわね。何かしら……)
「ああ、第一王子様と第二王子様の婚約者か」
アリスの視線の先を確認したアルノルドが呟いた。
「知っているの?」
「直接は会ったことないけど、銀髪の子がアレン殿下、緑の髪の子がクリステル殿下の婚約者だそうだ」
「え……?」
アリスは軽く顎に手を当てて考えた。
(クリステルの婚約者がフィオナよね? フィオナは銀髪。何度も見たから忘れるはずない――原作が変わっている?)
「えー、新入生の諸君、この度は入学おめでとう――」
アリスが考え事をしていると、学園長先生の有難いお話が始まった。学園長が十分くらい存分に話した後、生徒会長のアレンが出てきた。
「新入生の皆さん、入学おめでとう」
アレンが出て来た途端に女子生徒が色めき立った。
(やはり顔は良いわね。性格はアレだけど)
アレンの話を半分聞きながら、アルノルドがやや不安そうな面持ちでアリスに質問する。
「アリスも殿下みたいなのがタイプなのか?」
「私は、どちらかと言えば苦手ね」
「そっか」
安堵の表情を見せるアルノルド。それを見たアリスは、アルノルドに気づかれないように溜め息を吐いた。
◇◇◇◇
昼休憩。俺は生徒会室に来ている。
「アレン殿下、それで秘書と言うのは何をすれば良いのでしょう」
「とりあえずお茶汲みだな。後はそうだな……俺の身の回りの世話だ」
アレンが、実に愉快そうな表情で応えた。
「ですが、殿下には従者がいらっしゃいますよね」
学園内、皆平等と謳っておきながら、王族だけは従者をそばに従えても良いことになっている。
「生徒会にいる間はお前に頼むことにする。それと、公式の場以外では堅苦しい話し方はしなくて良い。無礼講だ」
無礼講――その言葉にはもう騙されない。
前世の上司に飲み会の席で『無礼講だ。何でも言ってくれ』と言われたので、素直に意見した。すると、みるみる顔が真っ赤になり火山が大噴火した。
無礼講と言う名の特殊詐欺だ。きっとアレンは、俺を不敬罪で罰したいだけだろう。その手には乗るものか。
「承知致しました。それと、殿下……」
「アレンだ。殿下はいらない」
「アレン様、義妹のフィオナが本日昼食をご一緒したいと言っているのですが」
「婚約者だからな。今日と言わず毎日でも構わない」
「はは、毎日は流石に……いえ、義妹を迎えに行ってきます」
キッと睨まれたので、すぐさまフィオナを迎えに生徒会室を後にした——。
それにしても、アレンのどこにヤンデレ要素があるというのだろう。ただのオレ様系男子にしか見えない。
でも女子はああいうのが良いんだろうな、きっと。あの顔面で壁ドン、床ドンされた日には全てを捧げそうだ。
それより、アリスはアレンとの出会いイベントは済んだのだろうか。学年が違うと、ステファンの時のように偶然同席出来ないから困る。
「お義兄様! お待ちしておりましたわ」
考え事をしているとあっという間に一年生の教室の前に着いていた。
「フィオナ、アレン……殿下が一緒に昼食食べようって」
「では準備して参りますね」
ん? なにやら視線を感じるような……。
視線を感じる方を見るとピンクが目に入る。アリスだ。
俺が見ると目を逸らされた。まぁ、二年生が一年生の教室まで来ていたら見るのは普通のことだ。
アリスの隣には茶髪のイケメン男子が一緒にお弁当を食べている。きっとアルノルドだろう。このクラスの男子を見る限り、彼だけが輝いて見える。
入学初日から一緒にランチする仲だ。アリスとアルノルドが幼馴染で仲が良いのは間違いない。
「お義兄様、お待たせ致しました」
「よし、行こう」
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