第23話 フィオナとアレン
「ご機嫌よう。アレン様」
「入学おめでとう、フィオナ。時間が限られているからな、早く食べよう」
俺とフィオナは生徒会室の隣にある、生徒会長専用の部屋に通された。中は高級そうな絵画やインテリアに豪奢な装飾がついている。この部屋だけ別世界に来たみたいだ。
早速食事にとりかかると、アレンがフィオナに話しかけた。
「フィオナ、初めての学園はどうだ?」
「はい、とても広くて迷子になりそうですわ」
「ははは、そうか。そういえば、今朝迷子になっている女生徒がいたよ。珍しい桃色の髪をしていたから、フィオナも見かけているかもしれないよ」
桃色って……アリス!?
アレンは既に出会いイベントをこなしていたのか。
「多分その方、わたくしと同じクラスの方だと思いますわ。アリス・ウェルトンさんと言ったかしら」
「アレン殿下……アレン様は、その女生徒と何か話はされたのですか?」
「いや、友人を探していたら迷ったようで、体育館の場所を教えただけだ」
アレンはにやりと笑って続けて言った。
「なんだクライヴ、気になるのか?」
「アレン様はフィオナの婚約者ですからね。可愛い義妹を泣かせるようなことがあれば容赦致しませんよ」
俺は冷気を身体に纏いながら、笑顔で牽制した。アレンも負けじと黒いモヤのようなものを出して笑顔で応えた。
「ほう。俺がフィオナを泣かせると? その言葉、そっくりそのまま返そう」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
「お義兄様、アレン様、おやめ下さい」
収拾がつかないと思ったのか、フィオナがとめに入った。
「ごめん、ごめん。クライヴの反応が面白くてついつい苛めたくなるのだ」
アレンが謝罪とは程遠い謝罪をしてきた。
「ご安心下さい。わたくしはアレン様に側室がいようが構いませんことよ。お義兄様が気を揉む必要はありませんわ」
「フィオナ……」
堂々とフィオナが愛人OK宣言をした。
良いのか、フィオナ。アレンが目の前にいるのにそんな堂々と。
それに、フィオナはアレンのことが気に入って婚約したんだよな? まるで全く興味がないみたいに聞こえるんだが……。
「寛容な婚約者だ。だが、案ずるな。俺はこう見えて一途だからな。フィオナ以外を迎え入れる気はないよ」
「アレン様。無理はいけませんわ。お世継ぎの為、何人でも側室を迎え入れて構いませんのよ」
「フィオナ、そんな悲しいことを言わないでおくれ」
なんなんだ。この二人の会話は。
一見して仲が悪いようにも見えるが、仲が良いようにも見える。
はっ! これはフィオナがツンデレで素直になれていないだけなのかもしれない。
ここは義兄として、アレンに忠告をするのではなく、二人の仲を深める恋のキューピットをした方が正解なのでは?
アレンは気に食わないが、フィオナが好きな相手だ。義兄として人肌脱ごう。
「アレン様、義妹は多少キツい言い方をすることもありますが、相手の最善を考えての発言です。自分の本心とは裏腹なこともありますので、どうか寛容に見守って下さい」
「……」
アレンは少し驚いた顔をし、フィオナは複雑そうな表情になる。
なんなんだ、この微妙な空気は……。
やっぱり俺に恋のキューピットは無理か。そもそも色恋沙汰に兄妹が出てくると碌なことにはならないのかもしれない。
「出しゃばったまねを……」
「兄のクライヴがそういっているのだ。そういうことにしておこう」
俺が謝罪をしようとしたら、アレンが笑いながらそう言った。
◇◇◇◇
アークライト伯爵家の屋敷。
学園も無事終わり、フィオナと屋敷に戻るとルイと使い魔のフィンが出迎えてくれた。
「フィンー!会いたかったぞ」
フィンに抱きつき、もふもふしていると、相変わらず角でグリグリされる。フィンも嬉しいようだ。
「お疲れ様でした。先に湯浴みされますか」
「そうだな。フィオナも疲れただろう。夕食までゆっくりすると良い」
俺達はそれぞれ自室に戻り、俺は湯浴みすることにした――。
「クライヴ様、準備が整いました。どうぞ」
「相変わらず魔法って便利だな」
ルイが炎を操って風呂を沸かすのだが、あっと言うまだ。薪を焚べたりせず、ただの水が炎によって一気に熱せられる。
「はぁー。でも何故この屋敷は一家にひとつの風呂じゃなく、各部屋に一つついてるんだ」
湯船に浸かりながら独りごちていたら、ルイが聞いてきた。
「何か問題でも?」
大有りだ。湯船が各部屋に付いているということは、各部屋で髪を乾かすことになる。
あの超絶可愛いフィオナのことだ。髪の濡れた姿はさぞかし美しいことだろう。美男美女は風呂上がりこそ三十倍美しさが増すんだ。
せっかく異世界転生して超絶可愛い義妹が出来たのに、その場面が見られないなんて悲しすぎる……。
「はは、また一人の世界に入っていらっしゃいますね」
ルイが困った顔で笑うが気にしない。
アホな妄想はさて置き、我が家は落ち着く。学園にいるとやはり気を張ってしまう。アリスの動向も気になるが、アレンとクリステルも何か変だ。
アレンは俺に挑発するような発言ばかりするが、そんなに悪い奴にも思えない。
クリステルは、一見、紳士的な振る舞いをしているようにも見えるが、周りを利用して服従させているような気さえする。
派閥争いに関係があるのだろうか。俺や俺の家族はどっちが次期王になろうがどっちでも良いのだが。
むしろステファンの方が公爵子息だ。ステファンと組んだ方が今後優位な気がするが、双方あまり接点はなさそうだ。
まぁ、こっちも様子見だな。アリスの方も次々にイベントが起こるだろうから、俺はアレンの近くで二人の恋路の邪魔をしまくろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます