第24話 アリス

※アリス視点です※


 一方、ウェルトン男爵の屋敷。


「やっぱり……クリステルとフィオナが婚約しているはずなのに」


 私、アリス・ウェルトンは自室でノートと睨めっこをしている。


「スフィアだって、ステファンルートに入った時の悪役よ。確か、公爵と男爵では身分が違いすぎると反対してくるステファンの妹。クリステルやフィオナとは接点はないはずなのに……」


 独り言を言いながら、私は今の現状を分かる範囲で書き出してみることにした。


 すると、やはり相違点が何箇所か出てきた。


 クリステルとフィオナが婚約するはずが、クリステルはスフィアと婚約。


 アレンには婚約者はいないはずなのに、フィオナと婚約している。


 フィオナとスフィアはそれぞれに取り巻きがおり、二人に接点はない。最後までただのクラスメイトで終わる。


 出会いイベントで、ステファンは周囲に女性を数名侍らせているはずが、パッとしない男が一人一緒にいるだけ。


 そして何より分からないのは、そのパッとしない男はフィオナの兄ということだ。フィオナとは険悪で、乙女ゲームには名前や顔はいっさい出てこないキャラだ。


 それなのに、一緒にランチをしたり二人が話している姿を見ても、とてもじゃないが険悪には見えない。


 その男はアレンの秘書をしていると聞いたが、そんなポジションあっただろうか……。


「怪しいわね」


 少し悩んで、私は一つの仮説に辿り着いた。


「これはあれかしら。フィオナも転生者ってこと?」


 ラノベでもよくある展開。悪役令嬢に転生したので、全力で破滅フラグを回避していく話。それならこの現状、納得できる。


 兄のせいで歪むはずだった性格は転生者なら関係なし。ついでに兄とは良好な関係を。そして、原作とは違う婚約者を選び、違う友人を作る。


 てことは、私にも嫌がらせしてこないのでは?


「これは良いんじゃない! ついでに転生者同士、フィオナとも仲良くなれないかしら」


 鼻歌まじりに明日の準備を始めた。


 ――私は、前世ではしがないOLだった。


 それがある朝、交通事故に遭い、ひょんなことからこの異世界に転生した。


 前世の記憶を取り戻したのは最近。学園に入る三ヶ月前くらいだ。


 それまでは恐らく原作通りのヒロインの生活を送っていたのだと思う。と言うのも、全く覚えていないのだ。


 気がついたら、前世でやり込んだ乙女ゲーム『TRUE LOVE』のヒロインになっていた。


 滅茶苦茶可愛いし、何度も見惚れたけれど。


『ヒロインだからイケメン達と楽しい学園ライフを送るぞー!』


 なんて考えには至らなかった。何故なら私はイケメンが大の苦手なのだ。イケメンそれすなわち、腹黒である。


 私の知るイケメンは……働かずに女に食べさせてもらっているヒモ。次々と高額なものを貢がせるホスト。一見まともに見えるが、二人きりになると豹変し、暴力を振るうDV男。


 この男達はかつての恋人達である。何故かイケメンとは付き合えるが男運が悪すぎる。


『イケメンとは絶対に付き合わない』


 と、ダメンズウォーカーの私は決意したのだ。


 ――だが、問題はすぐに起こった。


『アリス! 遊びに行こーぜ』


 幼馴染のアルノルドだ。ワンコ系と言うだけあって母性本能をくすぐられるような容姿と仕草だ。


『アリス、今日は何する?』『アリス、この間さぁ……』『アリス……』『アリス』


 アリス、アリス煩いのよ!


 三ヶ月一緒にいただけだけど、アルノルドが悪い奴ではないのは分かる。分かるのだが、好き好きアピールがすさまじい。


 記憶が戻る前の私はどう対処していたのか甚だ疑問だが、一応幼馴染ということなので無下にもできず、笑って受け流している。


 学園に入れば強制的に乙女ゲームが始まるはずだ。そうなればイケメン達が自ずとやってくる。


 ゲームは私を裏切らないと思っていたが、これが現実となると話は別だ。


 ハッピーエンド? そんなの私からしたらバッドエンドだ。修道院送りになった方が幾らかマシだ。攻略対象の好感度を下げて下げて下げまくる。


 悪役令嬢が出てきたら、どうぞ私はその人いりませんからってノシをつけて返してやろう。


 乙女ゲームは一年生の一年間だけだ。これを過ぎれば私の青春がやってくる。


 せっかくの二度目の人生、次こそはまともなモブと付き合って、青春を謳歌してみせる!

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