第7話 フィオナ

※フィオナ視点です※


「相思相愛って良いですわね」


 自室の窓からぼーっと外を眺めていると、お義兄様が歩いているのが見えた。


「今日も素敵ですわ……」


 わたくし、フィオナはお義兄様のことが大好きですの。もちろん男性として。


 お義兄様が記憶を無くしたのは、わたくしが四歳の時のことです——。


 記憶を無くす前のお義兄様は、それはもういじわるでしたの。大嫌いでした。


 話しかけても三回に一回は無視、手こそ上げられてはいないですが、グズだ、のろまだと毎日のように罵倒されていました。


 悔しくて悔しくて、この気持ちを抑えられませんでした。


 そんな折、ふと名案を思いついたのです。


『そうだわ。おにいさまにプレゼントをご用意したいからお庭に行くわ』


 侍女に伝え、庭園に向かいました。すると、探していたモノはすぐに見つかりました。


 ちっぽけな青虫です。


 そう、何を隠そうお義兄様は大の虫嫌いなのです! 


 それも青虫は最適です! 飛んで逃げるわけでもなく、そそくさと逃げる虫ではありません。動きが遅いので、誰かがつまみ出さない限りその場に居座ってくれます。


 意趣返しにはもってこいですわ!


 無理なのは分かっていますが『仲良くしたい』そんな僅かな願いを込込めて、お花はライラックに致しました。


『おにいさま? プレゼントをご用意しましたの。受け取っていただけますか?』


『お前が用意した物など嬉しくもないが、受け取るくらい良いだろう』


 やった! 受け取ってもらえましたわ! 受け取ってもらえないと意味がないですからね。


『お前にしては良いセンスの——』


 バタンッ……。


 え!? なにごとです? まさかの効果抜群? 


『おにいさまー!』


 やり過ぎたと反省した時期もありますわ。


 ですが、記憶を無くされてからのお義兄様ったら凄い変わりようなんです。毎日数えきれないくらいの可愛いを連発して、無視や罵倒なんて疎遠になりました。


 あれは、わたくしが失敗してお義兄様の服にお茶をこぼした時でした——。


『気にするな、洗えば済む。洗って落ちなければ新しいのを新調すれば良い。そうすれば、経済が回るな。フィオナはこの国の民のことまで考えて日々過ごしているんだな。素晴らしい』


 ふふ、可笑しいですよね。わたくしに対して砂糖のように甘々ですの。


 ですが、さすがに最初の内は兄妹としての好きでした。それがいつしか違和感を覚えたのです。


 あれは確か——わたくしが八歳の頃です。


 お義兄様はお父様に連れられて社交の場に顔を出したのです。帰宅したお義兄様は一人の御令嬢を褒めていました。


『父上、マックス男爵令嬢は良識な方ですね。可愛らしい外見からは想像ができない程の知識があります』


 ちくり……。


 この感情はなんなのでしょう。わたくし以外の御令嬢を褒めないで、話をしないで。


 この時は幼くて、このドロドロとした感情が何か全く分かりませんでした。


 時は経ち、十二歳、王家主催のお茶会に出席した際に気付くことになるのです——。


 ステファン様との出会いです。


 お義兄様とは面識があるようで、何やら親しげにお話しされておりました。見た目も華やかで女性からも人気がありそうなお顔立ちをされていらっしゃいました。


 正直求愛は嬉しかったです。初めてでしたし照れました。それ以上の感情は湧きませんでしたが。


 そして、ステファン様が去った後、お義兄様に言われたのです。


『俺が一生お前を守ってみせる』


 キャー、キャー! これってプロポーズですわよね!? 


 一生お義兄様について行きます!


 先程のステファン様に求愛された時の嬉しいの比ではありません。ステファン様が十だとするとお義兄様は百は優に超えましたね。


 このピンク色でふわふわしているけれど、時にはドロドロとドス黒い何かが覆ってくるこの感情が恋なのだと実感した瞬間でした。


 返事はもちろん『はい』の一択しかありません。これでお義兄様はわたくしのものですわ!


 国王陛下へご挨拶する為に参列していた際も、お義兄様に男性のタイプを聞かれたのでしっかりお伝えしました。


『お勉強熱心で毎日しっかり鍛えていて、心遣いが出来てわたくしを守ってくださる方』


 正に今のお義兄様そのもの! わたくしの為に好きな異性を演じて下さるおつもりなのですね。そんなことをしなくても今のままで素敵ですわよ!


 帰りの馬車の中では、添い寝をご希望されて、大胆なお義兄様も素敵!


 小さい頃は一緒に寝ることもありましたが、わたくし達ももうすぐ成人。そんな男女が一緒に寝るだなんて……。


 もちろんOKですけどね。だって相思相愛なんですもの。わたくしはお義兄様に全てを捧げますわ。


 気合いを入れて可愛らしいネグリジェでお迎えしたのですが、お義兄様ったら何もしてこないんですもの。胸だって結構大きくなったのに。


 初心なお義兄様も可愛いかったですよ。必死に何かと葛藤していましたものね。次回が楽しみですわね。


 そんなこんなで、わたくしとお義兄様の愛は順調に育まれているのです。

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