第6話 鳥籠
スー、スー……。
眠れない、眠れるはずがないだろこんなの。新手の嫌がらせか。
横を見ると、俺を抱き枕にして気持ちよさそうに寝ているフィオナの顔が至近距離にある。
何故こんな状況になっているのかというと、お茶会まで遡る——。
『やば、変な汗かいてる』
『大変緊張致しましたわ! ドキドキし過ぎて御尊顔を拝見するどころではありませんでしたわ』
『頑張ったね』
『それにお義兄様ってば、有名人でしたのね! すごいですわ』
『はは、それね。どうしよ、俺の才能皆無なのにね』
『そんなことありませんわ! 皆様のご期待通りびっくりさせて差し上げましょう!』
王家との謁見後、興奮気味のフィオナに、いつものようにポンポンと頭を撫でれば嬉しそうに笑った。
その後は軽食を嗜みつつ、フィオナにちょっかいをかけてくる輩に牽制をして過ごした。そして、無事にお茶会を乗り切った俺とフィオナは、帰りの馬車に乗り込んだ。
俺の学園での噂はさて置き、害虫は腐るほどいたが特に何もなかった。
フィオナもクリステルの話題を出してこない。クリステルのことをタイプとは言っていたが、ゲームのように執着しているわけでは無さそうだ。
『お義兄様、今日は一段とお喋りしていたので疲れたのではないですか?』
『ああ、害ちゅ……いや、男性陣は積極的な人が多いな。フィオナが添い寝してくれたら癒されるんだけどな、なんて』
『お義兄様!?』
『あはは、ごめん、冗談だっ』
『き、今日だけですわよ』
ん? んんん?
『今日だけ……とは?』
『一緒に、ね、ね、寝てさしあげますわ』
ッ——!?
茹で蛸のように顔を耳まで真っ赤にして何を言っているんだ! しばらく開いた口が塞がらなかった。
——と、今に至る訳である。
まぁ、義理とはいえ兄妹なのだから問題はない……はず。まだ未成年だし!
いやいやいや、俺の中身は三十をとっくに過ぎたオッサンだ。オッサンが十二歳の子と添い寝するなんて犯罪だ。それに俺は断じてロリコンではない!
前世の両親や友人がこの事を知ったら確実に軽蔑される。白い目で見られる。
今ならまだ引き返せる。そうだ、俺の体に乗っている左腕をそーとずらしてっと……よし。次は左足を……。
「んん……」
解放寸前のところで寝返りを打たれ、再び両腕でしっかりとホールドされてしまった。振り出しに戻る。
ん? この腕に当たる柔らかいものは……。お嬢さん、発達が早過ぎやしませんか? 十二歳はまだまだ子供ではないのか?
「んん、おにぃ……さま」
なんて色気のある声を出すんだ!
こいつは目に入れても痛くない程可愛いが、あくまでも義妹。天地がひっくり返っても義妹。三十超えたオッサンと少女。犯罪ダメ、絶対。発情するな、理性よ勝れ。
結局一睡もできなかった——。
『添い寝して』なんて変な冗談を言うものではないと反省した。
フィオナから嫌われたら生きていけない! 義兄として、しっかりしようと再び気を引き締めたのだった。
◇◇◇◇
ルイがお茶を淹れながら聞いきた。
「なにやら考え事ですか? クライヴ様」
「ああ、ちょっとな」
俺は一枚の手紙と睨めっこしている。
「これどう思う?」
「ああ、レイヴェルス公爵子息からのお手紙ですか」
王家のお茶会の後から、フィオナに対する手紙が増えた。主に男性から。
内容はお茶会やパーティーの誘い、そして求婚。俺が丁寧に全て断っている。
しかし、公爵家ともなると話は別だ。いくら気に入らなくても、俺の家はあくまで伯爵家。身分が上のものの招待は断りづらい。
「ステファン様といえば、確かお嬢様と同じお年頃の御令嬢がいらっしゃったと思いますよ」
「そうなのか? この間のお茶会にいたっけ?」
「フィオナ様にお友達を作る目的でお邪魔するのは如何でしょう」
「そうだな。そろそろ同性の友達も欲しいよな」
前世の記憶が戻って、フィオナを寵愛してきた。何かあっては困ると、幼くて無知なのを良いことに必要以上に囲っていた。
だって、外の世界を知ってしまったら、モブの俺の話なんて聞く耳を持たなくなりそうで怖いのだ。
まだまだ成長段階ではあるが、ゲームの設定のように、歪んだ性格にもなっていないし、とても良識のある子に育ってきている……と、思う。
そろそろ鳥籠の鍵を少しだけ開けても良い頃だろう。この行動が吉と出るか凶と出るかは分からないが——。
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