第5話 お茶会②
それにしても、ステファンと話しただけなのにどっと疲れたな。早く帰りたい。
「あ、お義兄様、国王陛下のご挨拶が始まるそうよ」
皆が注目する方を見ると、王座に国王陛下とその隣には王妃が座っている。
国王陛下は、精悍な顔つきに燃えるように赤い髪、金色の瞳をしており、王族の衣装を纏った姿は誰もが付き従いたくなる。
王妃様は、金髪碧眼の美しい女性が聖母のように微笑んでいる。
やや斜め後ろには、黒髪黒眼のスラリとした何とも言えない色気をもった美少年のアレンと、しっかりと鍛え上げられた肢体と国王陛下にそっくりな燃えるような赤髪に金色の瞳を持つ美少年のクリステルが立っている。
初めて姿を拝見したが、なんとも眉目麗しいファミリーだ。眩しすぎる。
それにしてもアレンはあまりこういう場に出ないと聞いていたのだが……。
「此度は集まってくれて感謝する。こういった場が初めての者も多いだろう。気を張り詰めず楽しんで貰えたら幸いだ。諸君らの今後に期待する」
国王陛下の挨拶も終わり、爵位の高い順から陛下や殿下方に挨拶をしに行くのが決まりであるため、フィオナと列に並んだ。
何事もなく終わりますように……。
公爵、侯爵、伯爵……の順なのでもう少し時間がある。落ち着かないので、フィオナに質問してみた。
「フィオナ、お前はどういう男性がタイプなんだ?」
「な、なんですの!? 急に……」
「いや、ちょっと気になって」
「うーん……お勉強熱心で毎日しっかり鍛えていて、心遣いが出来てわたくしを守ってくれる方かしら……」
耳まで真っ赤にしながら恥じらう姿が愛らしい。他の男に見せられないな。
でも、やけに具体的だな。まさか……。
公務をする為に勉強は欠かさず、国を守る為に自ら鍛え、民を気遣い守る——クリステル!?
なんてこった、性格は変わっても男の趣味は変わらないのか。
「お義兄様?」
「何度も言って分かっていると思うが……」
「はいはい、ご挨拶だけですわよね」
「すまないな。後で甘いものでも食べような」
「良いですわね。クリームたっぷりのタルトが美味しそうでしたわ。あ、そろそろですわ」
いよいよ次だ。気を引き締めなければ。
俺は軽くお辞儀をし、フィオナは最上級のカーテシーをした。
「国王陛下、殿下方、お初にお目に掛かります。本日は御尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。アーサー・アークライトが嫡男クライヴ・アークライトでございます。こちらは義妹の……」
「フィオナ・アークライトと申します」
「面を上げよ。アーサーにはいつも世話になっておる。このようなしっかり者の息子と可愛らしい娘がおるとは。もう時期学園にも通う年頃であろう? 息子達とも仲良くしてやってくれ」
「クリステル・フランセーンだ。兄は既に学園に通っているが、私は次年度からだ。よろしく頼む」
そう、あの乙女ゲームの舞台となるイーヴル学園。俺は攻略対象のクリステルとステファンと同じ学年。アレンは一つ上の学年。
もう一人の攻略対象アルノルドは俺の一つ下、ヒロインアリスとフィオナと同じ学年になる。つまり、二年後からがいよいよゲームの始まりだ。
「勿体無いお言葉。私も次年度からでございます」
俺たちをじっと見ていたアレンが呟いた。
「お前が噂のやつか……」
「噂……でございますか?」
なんだろう? フィオナが超絶可愛いのに対し、義兄は残念だ、とかかな。
「学園で既にお前は有名人だ。次年度の新入生に魔力属性が二つある天才、アークライト伯爵子息が入学すると。さぞ楽しい余興をしてくれるのだろう?」
え? えー!?
何そのデマ。いや、デマではないが、情報伝達が間違ってますよ……。魔力属性二つあっても天才ではない。そこらの子供よりショボい。
「いえ、私、魔法は全然才能がないのです」
本当の事を話しても、アレンは眉を顰め険しい顔をしている。
「謙遜は時に人を苛立たせるから気を付けろ」
「は、はい……申し訳ございません、殿下」
うわー、全然信じてくれてませんよこの人。
入学そうそう赤っ恥かかされてイジメの対象になる未来が見える……。
俺はモブらしくひっそりと身を潜め、フィオナの後方支援に回る予定だったのに、悪目立ちは避けたい。
「まぁま、とりあえず入学が楽しみだ。期待しているぞ」
クリステルはニコリと微笑み、俺達は再びお辞儀とカーテシーをして立ち去った。
◇◇◇◇
茶会後の王城では。
「どうであった? 良さそうな御令嬢はおったか?」
「いえ……」
「私は、以前より懇意にしているレイヴェルス公爵の御令嬢が良いと考えております。こちら側の派閥ですし、利害の一致はあるかと……」
数ある部屋の一室で、国王陛下とその息子アレンとクリステルが話しをしている。
「無難な判断だな。まぁ、良いであろう。便りを出しておこう」
「ありがとうございます」
陛下がアレンに向きなおる。
「次期国王になれるのは一人だ。急ぐ必要はないが、良き伴侶を見極めるのも一つの仕事だ」
「承知しております、父上」
「そうだ! アーサーの娘、アークライト嬢など良かったのではないか?」
「そうですね。魅力的な女性ではありますね。ですが、あれは……」
何か思うところがあるのか少し躊躇った様子だ。
「不服か?」
「いえ、我がモノにしてみるのも楽しそうですね……」
返事をしたのは、不適な笑みを浮かべるアレンであった。
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