第8話 友人
レイヴェルス公爵家のサロン。
日当たりが良く、窓からは庭園も見える。王家の庭とはまた違った華やかさがあり、庭師が丹精込めて作り上げたのがここから見ても分かる程だ。
早速ステファンが挨拶をした。
「我が公爵家に良くぞいらっしゃいました。以前は小さな妖精かと見紛う程に可愛らしく、本日も女神から遣わされた天使の如くお美しいですね、フィオナ嬢」
「お、お招き頂きありがとうございます」
「俺もいるんですけど……」
よくもそんな美辞麗句を恥ずかしげもなく言えるものだと、呆れを通り越して関心する程だ。
「失礼、いらしたのですね」
ステファンは本当に気付かなかったというような顔をしている。
それは一番傷つくからやめてくれ。
「お兄様、客人に失礼ですわよ。ご自分で招待なされたのでしょう」
ステファンの事をお兄様と呼ぶのは、ステファンと同じ鮮やかな緑色の髪にやや垂れ目で茶色の瞳の美少女だ。
背丈もちょうどフィオナと同じくらいなので例の妹だろう。
それにしても兄妹揃って顔が良い。そちらは絵になる兄妹だが、こちらは……貴族令嬢と従者みたいだ。
「アークライト様、兄が大変失礼致しました。妹のスフィア・レイヴェルスでございます。スフィアとお呼び下さい」
スフィアと名乗る少女は気品のあるカーテシーを披露し、淑女を思わせる。
俺とフィオナも続いて挨拶をした。
「いえ、クライヴ・アークライトと義妹のフィオナです。クライヴとお呼び下さい」
「わたくしのことも、どうぞフィオナとお呼び下さい」
俺は意趣返しのつもりでステファンに軽口をたたいてみた。
「それにしても、スフィアは兄とは反対に礼儀の正しいしっかりとした妹君ですね」
「そうなんだよ! 妹ではなく姉にしたいくらいだ。それに、なんとあの第二王子殿下の婚約者に選ばれたのだ。凄いだろう。羨ましいだろう。自慢の妹だ」
え?
「そうなんですの!? スフィア様おめでとうございます! 王子様のお目に留まるだなんて羨ましいですわ」
フィオナお前、羨ましいの?
やっぱクリステル推しだったんだな……。なんで俺は少しショックを受けているのだろうか。それは前に確認して知っていたはずだ。
フィオナの初恋を駄目にしてしまうが、俺はフィオナとクリステルとの恋仲は絶対に認めない。だから、スフィアがクリステルと婚約したのは好都合だ。ゲームと違う展開になれば結末も変わってくるはず!
万が一、スフィアが危ない目に遭うようなことがあれば、顔見知りになったよしみで後方支援させて頂こう。
そして、今はこいつをどうにかせねば——。
「フィオナ嬢、君はどんな色が好きなのかな? 天使には何でもお似合いだろうがな」
「明るい色が……」
「そうかい、そうかい、明るい色と言えば緑なんか良いのではないかな? 僕の色に染まった君を見てみたい。今度とっておきのドレスをプレゼントしよう」
「いえ、ステファン様、そういう訳には……」
「是非、スティーヴと呼んでくれたまえ。僕もフィーと呼ぶことにしよう。さぁさ」
「スティーヴ……様?」
フィオナ、ステファンに押されまくっているお前は到底悪役令嬢の道は歩んでいないと思うよ。
だが、放っておいたら勝手にステファンの婚約者になっていそうだ。
「ステファン様、良い加減にして下さい! 義妹が困っています」
「クライヴ、嫉妬しているのかい? では特別だぞ。男性にはあまり呼ばせたことはないのだが、君にもスティーヴと呼ぶ権利を与えようじゃないか」
「そんなもん、いらんわい!」
こいつといると疲れる。考えが斜め上をいっている。帰りたい。
「クライヴ様、どうか兄をお許し下さい。このような性格ですので友達がいないんですの」
妹にそんな心配されるなんて、なんだか哀れに思えてきた。俺も友達いないけどね。
でも、あいつ社交場ではよく人と話しをしていたような……。
「上辺だけの付き合いは多いのですよ。こう見えて公爵子息ですから」
「スフィア、余計なことを言うんじゃない!」
「だって本当のことでしょう? クライヴ様だけなのです。いつも対等に相手をして下さるのは」
いや、俺、多分失礼なツッコミしかしていないと思うんだけど。たまに俺の家ごと潰されるんじゃないかと思うこともある程に。
それに、ステファンは俺達がここに来た時も、俺に対して普通にシカト決め込んでいましたよ。
「兄は照れ屋なのです。好きな御方に会うと目が合わせられなかったり、お話し出来なくなるアレです」
まさか、そっちの趣味!? 俺は無理だ。男色ではない。普通に可愛い令嬢が良い。
「でも、この屋敷に招待したのもフィオナ宛だったし」
「それはシスコ……いえ、妹思いのクライヴ様ならフィオナ様を誘えば必ずいらっしゃると思ったからでございます」
今、シスコンって言いかけてたよね。俺軽くディスられてるのかな。
「だが、さっきもフィオナを褒め称えて、グイグイ迫っていたじゃないか」
「美辞麗句を並べあげて、御令嬢方を喜ばせると言う特技を発揮したまでですわ」
「なんだ、その無駄な特技は!」
「しょうがないだろう……この美貌と権力が揃えば御令嬢から声をかけられまくるのだ。話がつまらなかったり、令嬢方を褒め称えないと残念な人を見る目で見られるのだ」
口を尖らせて話すステファンは、その容姿とは反対にあどけなさが窺える。
それにしても、自慢か! このモブ顔の俺に喧嘩を売っているのか。俺なんてこの顔に産まれてから色恋で御令嬢から声なんてかけられた事がない。いや、前世もか。俺の人生って、虚しいな。
ステファンは、ゲームでは女たらしの設定だったはず。実際はシャイボーイが世渡り上手になるための手段だったのか。それにしても男色だったとは驚きだ。
「クライヴ、勘違いしているようだが男色ではないぞ。気を許せる友人が欲しかっただけだからな」
頬をほんのりピンク色に染めているステファンはとても絵になる。照れている内容は、なんとも言えないが……。
「はいはい。じゃあフィオナには興味ないんだな?」
「友人の妹は僕にとっても可愛い妹だ。そうだ、妹が二人になったお祝いをしよう」
「馬鹿なのか」
「お義兄様よく分からないですが、良き友人が出来たみたいですわね」
フィオナも嬉しそうにそう言ってニコッと笑った。続けてスフィアもフィオナに手を差し出して言った。
「フィオナ様、私達もお友達になれるかしら?」
「もちろんですわ!」
こうして、俺とフィオナに初めての友人が出来たのだった。
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