第95話 親切な魔族たち
アレンとフィオナ、アリスの三名は魔界へやってきた。
「ここが魔界ですの? なんだか暗いですわね」
「そうね。想像通りではあるけど、ちょっと怖いわね」
アレンによって魔界に着いたのは良いが、そこはクライヴがいる魔王城とは遠く離れた薄暗い森の中だった。
「フィオナ、アリス。ちょっと良いか?」
「はい、なんでしょう」
アレンが呼ぶとフィオナとアリスが振り返った。
「やはり、俺はもう魔法が使えない」
「え……?」
「アレン様……」
――魔界へ行く為には、転移で行ける。しかし、人間の魔力量は多いように見えても悪魔の比ではない。魔界までとなると幾重もの次元を越える必要があり、人間の力では不可能なのだ。
それに気付いたアレンは禁術を使った。それは一時的に魔力量を無限に底上げしてくれるものだった。その対価として自身の魔力が失われた。
「ここから先、二人を頼ることになるが申し訳ない」
アレンが頭を下げたので、フィオナが上からアレンを見下ろして言った。
「アレン様、ご自身を買い被りすぎでは?」
「フィオナ? 何言ってるの?」
フィオナの態度にオロオロするアリス。それを気にもせずにフィオナが続けた。
「わたくしとアリスはアレン様がいなくても立派にお義兄様の元まで行けますわ。アレン様をお護りしながら行動するなんて造作もありませんことよ」
「フィオナ、ありがとう」
「そうと決まれば早くこの森を抜けますわよ」
「そうだな。手紙には魔王城で暮らしていると書いてあったからすぐに見つかるだろ」
◇◇◇◇
森を歩き始めて二時間。
「ねぇ、フィオナ?」
「なに?」
「アレン様、さっき私達に頭下げてなかった?」
「そうですわね」
「魔法使えないのに魔物一人で倒して回ってるけど、アレン様ってどれだけなの……」
やはり森の中にはダンジョンのように魔物が沢山いた。しかし、アレンが率先して前に出て、あっという間に倒すのだ。フィオナとアリスの出る幕は今のところない。
アレンが剣についた魔物の血を拭いながらアリスに言った。
「お前達にはアビスとの戦闘に向けて体力温存してもらいたいからな。雑魚は俺でどうにかする」
「雑魚って……さっきの普通にS級レベルでしたけど」
そんなことより、先程の会話が聞こえていたのかと思うと、迂闊に余計なことは喋れないと思うアリスだった。
そのまま先へ進むと、薄暗い森に光がさした。
「あ、森を抜けましたわ」
「あそこに集落があるな。聞き込みでもするか」
「人間だと分かったら攻撃とかしてこないですかね?」
不安そうなアリスに対してフィオナが平然と言った。
「攻撃してきたら返り討ちにするまでですわ」
「はは……フィオナ、そんな性格だったっけ。まるで悪役令……」
アリスが悪役令嬢と言いそうになったところ、アレンが何かを発見したようだ。
「お、早速誰かいるぞ」
「あれは……獣人ね」
アレンが指を指した先にはうさぎの耳と尻尾が生えた女性の獣人がいた。
「獣人? アリス知っていますの?」
「ええ、肉食系の獣人だったら襲ってくる可能性はあるけれど、あそこにいるうさぎの獣人なんかは害はないはず」
アリスはあらゆるゲームやラノベを読み漁っている。ファンタジーは得意中の得意だ。その知識がここに来てようやく役に立ちそうだ。
「ではちょうど良いな。ちょっと聞いてくる」
そう言ってアレンは小走りに獣人の元へ行った。アレンがうさぎの獣人と接触すると、獣人は頬を赤く染めてアレンをうっとりと眺めているのが分かった。
「アレン様の美貌は魔界でも有効なようね」
「そうですわね。アレン様であれですから、お義兄様だったらあのまま押し倒されているに違いないですわ」
「そ、そうね……」
フィオナの目は大丈夫だろうかとアリスが心配していると、アレンが戻ってきた。
「どうでしたか? 良い情報は聞けました?」
「ああ、魔王城まではここからずっと南にあるらしい。だが、歩いていける距離ではないそうだ」
「そんなに遠いんですの? でも歩くしかないですわ」
「それが親切な事に隣り村まで送ってくれるらしい」
アレンが獣人の方を見てニコッと爽やかな笑顔を見せると、両手を顔に当てて悶えていた。
「美しいって得ですね」
「ん? アリスなんか言ったか?」
「いえ、なんでも」
◇◇◇◇
魔界へ来てから早二週間。
魔王城まではもう少しといったところまで来ていた。
三人とも連日野宿を覚悟していた。しかし、アレンだけでなく、アリスとフィオナの美貌も魔界では有効なようで、お金など何もないのに寝泊まりや食べ物には困らなかった。
「魔界って良いところですわね」
「そうね、皆親切だし。人間よりよっぽど優しいわ」
「そうだな。侵略を考えていたようには到底思えん」
フィオナ、アリス、アレンが口々に魔界を褒め称えていると、一人のエルフが声をかけてきた。
「君たちだろ? 魔王城に行きたいって言ってるのは」
「はい。そうです」
「ちょうど魔王城の近くまでこれから行くんだけど、一緒に乗って行くかい?」
「良いのですか! 助かりますわ!」
フィオナがキラキラした目でエルフを見ると、エルフは照れたように頭を掻いた。
こんな感じで下心丸出しな様々な魔族から声をかけられては前に進めるので、遂に魔王城の前までやってきた。
「ここだな」
「ここですわね」
「正面から行っちゃって良いのかな……」
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