最終章 逃げられない
第94話 いざ、魔界へ
余興から一週間。人間界では。
「お嬢様! フィオナお嬢様!」
「どうしたの。そんなに慌てて、ルイらしくないですわね」
ルイが慌ててフィオナの部屋をノックもせずに入ってきた。
「申し訳ございません。クライヴ様から便りが届いております!」
「お義兄様から!?」
フィオナも慌てて手紙をルイから奪い取り、封を開けた。
「お義兄様の字だわ」
お手本のように綺麗に書かれた字は正にクライヴのものだった。フィオナが見間違うはずがない。しかし、読み進めて行くうちにこれはクライヴが書いたものではないと思い込みたくなった。
「うそよ。お義兄様がこんなこと言うはずないもの」
フィオナの目には涙が溢れ出していた。
「お嬢様……?」
ルイも不躾ながら手紙を手に取り読んだ。そしてフィオナ同様一筋の涙を流した。
声を震わせながらフィオナはルイに指示を出した。
「みんなを呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
◇◇◇◇
再び乙女ゲームの主要メンバー達が一堂に会した。
「こんなのって……」
「俺のせいだ……」
「どうして、いつも一人で抱え込むんだ」
手紙を読んで先程のフィオナとルイ同様に皆涙を浮かべた。
その手紙には元気なこと、侵略は回避できたこと、迎えにこなくて良いこと、それぞれ一人ずつに宛てた手紙も添えられていた。そして最後にお別れの挨拶が綴られている。
一通り泣いた後、アレンが口を開いた。
「俺は信じない。こんな最後なんて絶対嫌だ」
「わたくしもですわ」
「侵略回避出来たなら帰ってくれば良いんだ。クライヴが残る必要などない」
「ですが兄上、魔界に行く手段がないのでしょう。どうすれば……」
「いや、手段はある」
皆がアレンに注目した。そして、静かに次の言葉を待った。
「もう少し時間がかかるが、俺の魔法で行けるはずだ」
「本当ですか!?」
「それならクライヴを説得しに行きましょう」
「もし再び侵略されることになっても、立ち向かえば良い」
皆が期待の眼差しでアレンを見ている中、フィオナだけが複雑な表情で静かにアレンを見つめていた。
「ただし、行くだけしか出来ない。帰りはジャンに魔法陣を描いてもらって帰る形になる。故に、誰かジャンとその魔法陣を見張って欲しい」
「兄上、その役目私が引き受けます」
「クリステル、ありがとう」
アレンはお礼を述べた後、続けた。
「そして、連れて行けるのは二人までだ。一人はフィオナだとしても、もう一人は……」
アレンが人選していると、アリスが立候補した。
「私も連れて行って下さい」
皆が驚き、アルノルドが必死で引き留めた。
「アリス、魔界はどんなところか分からないんだ。それに、先輩を説得するなら仲の良いステファン様とかに頼むべきた。なんでアリスなんだ」
「アルノルド、ごめんね。こうなったの全部私のせいなんだ。あの人だけに責任を押し付けられない」
「アリス何を言って……」
「それにね、あれから勉強して少しだけど魔物を浄化したり、治癒以外のことも出来るようになったんだ。少しは戦力になれると思うの」
アリスはフィオナの方へ向き直った。
「フィオナ、一緒に行っても良い? あなたの大切な人、助けてあげたい」
「アリス……」
「決まりで良いか?」
アレンがそう言うと、フィオナが頷いた。
正ルートのヒロインと裏ルートのヒロイン、好感度MAXの攻略対象の三名が結託すれば最強だろう。しかし、反対にクライヴはただでは戻ってこられないだろうとエリクが密かに冷や汗を流した。
◇◇◇◇
数日後、魔界へ出発の日。
「フィフィ、本当に行くのかい?」
「おにいちゃんを見つけたらちゃんと帰ってくるのよ」
「はい、お義父様、お母様。わたくし、お義兄様を迎えに行ってきます!」
フィオナの両親も見送りに来ていた。クライヴがいなくなったのを悲しんでいたのはフィオナ達だけではなく、もちろんその両親も嘆き悲しんでいた。
国王が悪魔と繋がっているなんて微塵も知らない父アーサーは、直に魔界への行き方を聞きに行ったり、レナに占ってもらったり色々な方面から積極的に動いた。
結果は惨敗であったが、アレンが行けると分かればアーサー自ら出向くと行って聞かなかった。それをアレンが宥めて、ようやく今に至る。
アーサーはフィオナに向ける悲しい表情から一変、真剣な表情でアレンを真っ直ぐ見つめた。
「アレン殿下、義娘と愚息のことをどうか、どうか宜しくお願い致します」
「必ずや無事に帰還することを約束する」
それからもクリステルやステファンらが口々に無事を祈る言葉を並べて、アレンとフィオナ、アリスの三名は魔界へ出発することとなった。
「では行こう、フィオナ、アリス」
「「はい」」
いざ、魔界へ!
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