第55話 ダンジョン再び
魔法省から帰宅後、フィオナを連れて以前俺が魔法特訓をした湖までやってきた。
メンバーも昔と変わらずフィオナ、ステファン、ルイ、俺の四人。懐かしの顔ぶれだ。
「フィオナ、大丈夫か?」
「ええ、とりあえず強そうなのを出してみますわ」
「お嬢様頑張って下さい」
俺はよく屋敷の庭やダンジョンに行って魔法の特訓をしている。
しかし、フィオナは日常生活や学園の授業でしか使用しない為、どのくらい魔法が使えるのか先に確認することになったのだ。
フィオナが目を瞑ると、ふわっと髪が靡いた。すると、湖の水が一気に真上に噴き上がった。
——!?
俺は唖然とし、声も出なかった。
ステファンとルイも同様に目を丸くしている。
「どうでしょう? こんなもので宜しいでしょうか?」
こんなもの? そんな大したことないような言い方をして、これでまだ腹八分目とでも言うのだろうか。
俺の目の前にはもの凄い大きな水龍がいる。今までに見たことのないくらい美しいそれは、こんなもので済ませられるレベルではない。
さすが正ルートの悪役令嬢にして裏ルートのヒロイン。魔力量がチートだった。
幼い頃から魔法の才能はあると思っていたがこれほどとは。体育祭の時に学園が湖にならなくて本当に良かった。
ステファンやルイまで呆気にとられて黙っている為、不安になったフィオナが再び聞いてきた。
「やはりこれではお義兄様のお役に立てませんか?」
「いや、凄すぎて言葉にならなかっただけだ。ステファン、どう思う?」
「ここまでとは想定外だ。ルイと同等にSランクいけるのではないか」
「私は剣と魔法で戦うタイプですが、お嬢様は魔法だけで優にSランクになれそうですね」
皆が褒め称えると、フィオナの不安そうな顔が一変、照れたような笑顔になった。
俺はフィオナに抱きついて言った。
「フィオナ! これならどうにかなるかもしれない! あとは実践あるのみだ!」
「明日も休みだ。早速ダンジョンに行ってみるか」
ステファンもノリノリだ。
来たばかりだが、魔力量が半端ないことも確認出来たので明日の準備をする為に帰ることになった。
◇◇◇◇
翌日。
俺とフィオナ、ステファン、ルイ、フィンの四人と一匹でダンジョンにやってきた。
この言葉に言い表せない気持ち、分かってくれるだろうか。ぽい! 非常にRPGっぽい! 俺がやりたかったのは乙女ゲームではなくこっちだ。
「でも、どうしてフィオナはそんな可愛い戦闘服持ってたんだ?」
フィオナは白を貴重とした聖女の衣装のような格好をしている。これが可愛いのなんのって……。
昨日の今日だから以前の俺のようにお下がりか、適当に見繕う予定だった。だが、フィオナが笑顔で大丈夫と言って部屋に籠ってしまった。
「いつかお義兄様とダンジョンデートするのが夢だったのですわ」
恥じらいながらこんなことを言われたら悩殺されない男子はいないだろう。今すぐここで押し倒して、その綺麗な格好をぐちゃぐちゃにしてやりたい。
そんな衝動を抑えながらフィオナを受付に連れて行った。俺が以前受けた説明を受け、いざダンジョンへ!
ちなみに、俺はあれからステファンと並んでAランクになった。Aランクまでは順調だが、Sランクへの道のりがこれまた険しい。
おそらくラスボス級を何十体も倒さないとなれそうにない。まぁ、Sランクがそこら中にゴロゴロいたらランク付けの信憑性にかけるか。
「まずは手始めに最下層ですね。お嬢様なら難なく倒せそうですが」
「そうだな、能力はあっても戦闘経験ゼロだと上手く立ち回れないかもしれない。徐々に最上階を目指していくのがベストだろう」
ルイとステファンが口々にそう言いながら、最下層の扉を開いた。フィオナもやや緊張した面持ちで、俺の腕にしがみつきながら入っていく。
「ここがダンジョンなのですね」
「ごめんな、こんなことさせて」
普通の御令嬢はダンジョンなんて来ない。それを無理矢理連れて来ているのだ。申し訳が立たないというものだ。
だが、そんな俺の思いとは裏腹にフィオナは満面の笑みで応えた。
「いえ、お義兄様と一緒に戦えるだけで幸せですわ」
「フィオナ……」
なんて健気なんだ。こんなに良い子に育って。誰がこんな裏設定なんて作りやがったんだ。
心の中で原作者に文句を言いつつ、俺達は先へ進んでいく。すると、道の真ん中にスライムが現れた。
「やっぱり一番最初はスライムなんだな」
俺の時もそうだが、RPG全般最初はスライムが出てくる気がする。
「フィオナ、スライムは弱いが、すばしっこくて触れたら溶ける。出来そうか?」
「はい。やってみますわ」
フィオナは両手を掲げて、小さいスライムに対してこれまた大きな水の牢獄を作った。スライムは逃げられず、浸透圧の問題で形がなくなった。
「凄いじゃないか! まさかそんな倒し方があるなんて」
「見事だな」
「さすがですね、お嬢様」
俺達は口々にフィオナを褒める。褒めながらステファンがアドバイスをした。
「見事だが、魔力量の調整が出来るようになった方が良いかもしれんな」
「そうですね。いくら魔力量の多いお嬢様でも、弱小魔物相手に魔力の無駄遣いをしていては、いざという時に困りますからね」
ルイも補足して言うと、フィオナは困った顔をした。
「フィオナどうした?」
「魔力量の調整は、どうすれば宜しいのでしょうか」
「確かに……どうやるんだ? ステファン」
ステファンとルイが顔を見合わせて黙ってしまった。ステファンやルイの言う事は分かる。だが、分からない物は分からない。
ため息を吐きながら、呆れたようにステファンが聞いてきた。
「君たち義兄妹は全く……クライヴは今までどうやってコントロールしていたのか聞いても良いか?」
「どうって、そんなの俺はいつだって全力前進だ!」
「クライヴ様……」
ルイまでどうしてそんな哀れみの目で見るんだ。
ステファンが俺に向き直って言った。
「クライヴも今からフィオナと一緒に最下層からやり直しだ」
「えー! 俺Aランクなのに」
「関係ない。基礎からやり直しだ。再び師匠と呼ばせてやろう」
こうして、俺とフィオナは魔法の基礎からステファンに教わることになった。
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