第54話 魔法省
学園は休日、今俺は魔法省に来ている。
この世界の魔法省は主に魔法に関する法律や制度を決めているところだ。他にも魔法に関する様々な事は、ほぼここを通していると言われても過言ではない。
そして、何故俺が今日ここに来ているのかと言うと……。
皆、忘れているかもしれないが、俺は空を飛んだ。飛んだことが凄いのではない。飛ぶという概念をこの世界に知らしめたこと。それが評価された。
いずれ、飛行機のような魔道具が開発されるのだろう。馬車では長距離には向いていないし、何より管理が面倒だから。
初めての場所は不安なので、仲介に入ったステファンを連れてきた。だが、偉い人に賞状を貰ってあっさり終わった。
ここに来るのに一時間はかけたのに、コンビニ入ってトイレだけ借りてきました、くらいに早かった。
「ステファン、ちょっと探検していこうぜ」
「それはまずいだろう」
「また一時間かけて帰るんだ。ちょっとくらいバチ当たらないって。何か言われたら、道に迷いましたって言えば良い」
ステファンは優等生なので、乗り気ではなかったが渋々付いてきてくれた。良い奴だ。
探検開始から五分。俺は思った。
「なんか普通だな。書類ばっか」
「当たり前だ」
「帰るか」
ステファンは呆れたのか安堵したのか分からないが、溜め息を吐きながら出口へ誘導してくれた。
広い廊下を歩いていると、男性と女性が二人で話している姿が見えた。
『——だそうですよ』
『まぁ』
『それでこの魔法はこうなるらしいんです』
ん? 何処かで聞いた事のある声だ。
何処だろうか。大人と関わるのは父に付いて社交の場に顔を出す時くらいだ。顔をちらりと確認してみるが、全く身に覚えがない。
『知らなかったです』
『奥が深くて面白いですよね』
やはり、女性は知らないが男性の声を聞いたことがある。
何処で聞いたのか……思い出さないといけない気がしてならない。頭の中がグルグルし始めた。
そんな俺を見てステファンが心配してくれた。
「クライヴ、大丈夫か? 早く帰ろう」
俺とステファンが馬車に乗り込むと馬車がゆっくり進み出した。馬車の中でもステファンは心配してくれた。
「急にどうした? そんな険しい顔をして」
「ステファンは、さっき廊下で話してた男性の声を聞いたことないか?」
暫し考えた後、ステファンは言った。
「全く身に覚えがないな。魔法省には知り合いはいるが、今日は知らない人ばかりだった」
「そうか。だよな」
考えるのを諦めて窓からぼーっと外を眺めていると、ハッと思い出した。
「野外活動の時だ」
「野外活動? あれは魔法省の人間だぞ」
「俺とアリスが狙われた時の男の声にそっくりだ。戻ろう、戻って確かめよう」
「待て待て、一旦座れ」
立ち上がった俺をステファンが制止したので、座り直す。
「それは確かなのか?」
「ああ、間違いないと思う」
ステファンが顎に手を当てて考えている。暫し考えた後、口を開いた。
「今すぐに戻るのは得策ではないな」
「どうして。早く確かめた方が良いだろ」
「魔法省は魔法で犯罪を犯した人を罰する許可も出せるところだ。僕達が犯罪者に仕立て上げられて罰せられる可能性もある」
「それじゃ、どうすれば……」
「真正面から聞いても惚けられて終わりだ。確かな証拠を掴めれば良いが……難しいだろうな」
黒幕が分かったかもしれないのに、何もできないなんて。
「とりあえず状況をアレン殿下かクリステル殿下に相談するのが得策だろう。王族を罰する事は誰にも出来ない」
「そうだな」
クリステルは敵の手中なので、アレンに相談するか。アレンなら上手く立ち回りそうだ。ついでにエリクとの事を話した方が良いのかも知れない。
前世の記憶について話せばおかしい奴だと思われて、反対に信じてもらえない可能性もある。
だが、十年前からずっとこの戦争に頭を悩ませて回避しようとしいるのはアレンだ。クリステルの件もあるし、何も教えないのはいけない気がする。
俺の知識ではない為、エリクの許可を得てからにはなるが——。
ステファンの方を見ると、窓の外を眺めて何やら考え込んでいる。俺の視線に気付いたのか、目が合った。
ふいに目が合うと恥ずかしいもので、お互い照れたように目を逸らしてしまった。
ステファン相手に照れていると思われたくないので、新しい話題を振った。
「そういえば、帰ってからフィオナと魔法強化の特訓をするんだ」
「そ、そうか。相変わらず熱心だな」
「ああ、だけど今回はフィオナのをメインにしようと思って」
「フィオナが? クライヴではなくてか?」
ステファンが不思議そうな顔をした。具体的なことは言えないのでそれっぽく誤魔化しながら応える。
「俺が狙われてるって事は、近くにいるフィオナも危ないから。万が一の為にな」
「なるほど。僕も一緒にしても良いか?」
魔法に関してはステファンが秀でているから、ステファンもいてくれるなら効率が良い。
「うん。是非一緒にやろう」
「ありがとう」
ステファンの爽やかな笑顔を見ると、罪悪感を抱く。ステファンは俺が狙われていることしか知らない。
いずれステファンにも全て告げなければいけない時が来るだろう。その時に俺の事をまだ親友と言ってくれるのだろうか。その笑顔を見せてくれるのだろうか。
いや、裏切り者と罵られ、軽蔑の目で見られても良い。生きてさえいてくれれば——。
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