第105話 女子会

 これはご主人様が三年生に進級した後の話。


 私こと、ご主人様の使い魔のフィンは、フィオナにモフモフされながら女子会で繰り広げられている女子トークを右から左に聞き流している。


 メンバーは、フィオナとアリスとスフィアの三名。


「でね、お義兄様ったら……」


「もう、フィオナの惚気話はお腹いっぱいよ。スフィアの話も聞きたいわ」


 アリスがスフィアに話をふると、スフィアは苦笑を浮かべた。


「私は特別変わったことはございませんよ」


「でも、クリステル殿下が洗脳から解かれてからはスフィア一筋なんでしょ? どんな感じなの?」


「アリス知らないの?」


「何を?」


 フィオナがアリスにも話して良いか目で合図すると、スフィアはこくりと小さく頷いた。


「今、スフィア様は三角関係なんですのよ」


「え? 誰と?」


「エリク様ですわ」


「エリクって、あのエリク!? いや、エリク先輩!?」


 アリスは目を丸くし、スフィアは照れたようにはにかんだ。


「クライヴ様曰く、モテ期到来という奴らしいです」

 

「いやいやいや、モテ期到来ってスフィアはずっとモテてるわよ。モテてない時期があったら教えて欲しいくらいよ。で? 詳しく教えてよ」


 アリスが興味津々に聞けば、スフィアは思い出すように語り出した。


「あれはフィオナ様に付いて、クライヴ様の剣術の授業を見学している時でした————」


◇◇◇◇


 訓練用の剣を交えながら、クリステルがエリクに忠告した。


『エリク、もうスフィアにプレゼントは贈らなくて良い。スフィアは私の婚約者だ』


『ハッ、何が婚約者だ。自分はアリスと愛を育むからスフィアにも好きにしろと言ったのは自分じゃないか』


『それは……』


『洗脳されていたなんて言い訳は聞きたくないからな』


 エリクに痛いところを突かれ、何も言い返せないクリステル。それでも、スフィアを取られたくないようでクリステルは闘志を燃やしながら言った。


『私と勝負しろ! 私が勝てばスフィアに金輪際近付くな』


『良いだろう。僕が勝ったら好きにさせてもらうからな。文句言うなよ』


 授業中に喧嘩はやめて、と剣術の先生があわあわしてはいたが、王子様には誰も逆らえない。剣も本物ではないので大事には至らないはず。


 二人のスフィアをかけた決闘が始まった。


◇◇◇◇


「で? どっちが勝ったの? やっぱ何でも完璧なクリステル殿下?」


 アリスが前のめりに聞いたので、フィオナが嬉しそうに応えた。


「エリク様よ」


「うそ!? クリステル殿下が負けちゃったの? じゃあ、スフィアはエリク先輩と付き合うの?」


 すると、スフィアは首を横に振った。


「なんだ。エリク先輩の片想いか。スフィア本人をさしおいて決闘なんてするからよね」


「違うの」


「違う?」


「エリク様が言ったの。『僕はスフィアの近衛騎士になる! 僕が勝ったんだから文句言うなよ』って」


 フィオナはうっとりとした顔で言った。


「敢えて婚約破棄させたり妾の立ち位置に成り下がることなく、自ら身を引き、近衛騎士として好きな女性を見守る。素晴らしいですわ」


 そこだけ聞けば、誰もがエリクを出来た男だと思うことだろう。しかし、私はご主人様とエリクの話しているのを聞いてしまった——。


『何でスフィアと結婚する方向に持っていかないんだ? あの状況ならできただろ。スフィアだって、どっちかっつーとクリステルよりお前に好意抱いてるっぽいし』


『あれでええねん。だって、スフィアは推しや。推しとは結婚出来ん』


『そういうもんか? 別に良いと思うけど』


『それにや。結婚してしまったら女は変わる。特に子供ができてからは旦那に対してのあたりが強うなる。何やっても罵られ、感謝もされん。しまいには子供と一緒になって僕の事を馬鹿にしてくるんや』


『はは……まるでエリクが経験したような言い方だな』


 やや具体的なエリクの話にご主人様も言葉に困っている。

 

『せやからな、陰ながら応援するくらいが丁度良いんや。それにな、近衛騎士はええで』


『……?』


『四六時中一緒におっても互いに幻滅したりせんし、何と言ってもさり気ない動作一つから発言まで近くで見られる。スフィアが捨てたもんとかも拾って宝物にするんも良いかもしれん。それからな……』


 長々と続くエリクのややストーカー寄りな発言にドン引いてるご主人様が呟いた。


『フィン。エリクはまともかと思ってたが、こいつはこいつで色々こじらせてんな』


 擬人化していない為、鼻をスンスンして同調しておいた。


◇◇◇◇


「エリク様……」


 スフィアは恋する乙女のような顔で遠くを見つめた。


「スフィア、完全にエリク先輩に恋しちゃったね」


 アリスが苦笑しながら言えば、スフィアも淡々と言った。


「ですが、政略結婚は貴族令嬢の務め。私はこの想いは胸に秘め、クリステル殿下の元へ行きますわ」


 女性をその気にさせておきながら、自分だけ良いとこ取りなエリクは乙女の敵に違いない。


 その相手がスフィアだったから良かったものの、もしもヤンデレなフィオナだったなら……想像するだけで恐ろしい。


 ただ、私はそんな三人の関係をとやかく言うつもりは毛頭ない。ご主人様が幸せならそれで良い。自分勝手だと思われたって関係ない。


 だって、私はご主人様の使い魔だから。

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転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されてます。 七彩 陽 @nanase_haru

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