第42話 悪魔との契約
はるか昔、ここは皆が平等な世界だった。
ある男が一人の女性に執着し、自分のものにしたいと強く願った。その男は一人の悪魔と契約を交わした。
男は魔力を手に入れる。代わりに、悪魔の出した条件は“魔族の人間界への侵略の手助け”。契約は成立した。
魔力を手に入れた男は力で女性を自分のものにした。
悪魔との契約を守る為、男は魔法を使って民を支配し王となった。食物や金銭等は王に献上するよう命令し、次第に民は弱くなっていった。
ただ一つ問題があった。人間界には魔素がない。侵略しても魔物は人間界では生きられない。
そこで作られたのが、人間と魔物が共に生きられるダンジョンだ。ダンジョンを通して、何十年何百年かけて、少しずつ人間界に魔素を流し込む計画。
人間の寿命は短い。男が生きている間には約束は果たされず、男は死ぬ間際に悪魔に言った。
『時期になったら私の子孫を使え』
男は悪魔との契約については誰にも話していなかった。男は愛する女性と添い遂げられれば他はどうでも良かったから。
何も知らない王の子孫達は、力をもっていることで傲慢になり、貴族社会というものを創り出した。
悪魔には丁度良かった。平民や奴隷達は力を無くす。恐れるのは一部の魔力を持った貴族だけ。
契約した男は全属性であったが、その子孫達には一部の属性しか受け継がれなかった。つまり今の貴族は弱い。
そして十年前、男と契約した悪魔が王城へ現れ、一人の人間に告げた。
『約束の時はもうすぐだ』
契約を破ればその時点で王家直系は皆殺し。その後は通常通り人間界の侵略。契約を守り侵略の手助けをすれば、一部だが人間が住める場所を用意する。その二択を出され、悪魔と人間は手を組んだ。
「——という訳で、お前は命を狙われている」
「は?」
アレンは一通り話してお茶を飲んで一服している。一服している場合ではない。何故その展開で俺が出てくる。
「十年前に俺は、悪魔と誰かが話しているのをたまたま聞いてしまった。だから、この事実を知っているのは俺と、その誰かだが、薄暗くて誰かは分からなかった」
アレンは補足して言うが、俺が聞きたいのはそこではない。
「それでどうして俺が狙われるんですか」
「クライヴ、お前が魔力属性を二つ持っているからだ」
再びアレンが真剣な表情で話し出した。
「俺は回避の為に策を講じていた。そんな折、お前が現れた。魔力全属性に比べれば弱いが、今の貴族は属性一つが当たり前。つまりお前は他の奴より強いという事になる」
俺は強かったのか。魔法に関してはステファンに特訓してもらって、かろうじて人並みになった。アレンやルイの方が断然強いと思うのだが。
「そこで、お前を使って人間界の侵略の手助けをする可能性が出て来た。一刻も早くお前を始末しないといけないと敵対視していた」
だから、お茶会の時、敵意剥き出しだったのか。納得。
「だが、逆にフィオナと婚約することで、お前をこっちの味方につけようと考えた。フィオナを人質にすれば、お前は必ず俺の味方になると思ったから」
「まぁ、正解ですね。でも、待ってください。敵も俺を取り込むつもりなら俺は殺されないのでは……?」
「取り込むつもりならな。だが、ダンジョンの一件覚えているだろう? 最下層にいる人間が上級魔物をいとも容易く倒したとなれば、芽が出る前に摘んだ方が良いと考えるのも自然だろう」
「なるほど……」
「現に野外活動の時はお前の力で倒したのだろう?」
「えーと、使い魔のフィンが最後は倒しましたけど」
アレンに言われて改めて振り返ると、いつも人任せで恥ずかしくなってきた。だが、アレンは真面目に応えた。
「魔物を従えさせるのも普通は困難だ。それを従えさせたのはお前だ。故にお前の力だ」
「あ、ありがとうございます」
アレンに褒められると、なんだかくすぐったい。
「魔物と悪魔の戦争が終われば、俺はこの世界を元の皆が平等だった世界に戻したいと思っている。協力してくれるか?」
「それ、協力するしか選択肢ないですよね」
アレンは本当は誰よりも民のことを考え、慈しむことの出来る優しい王子なのかもしれない。
「でも、それなら俺はアレン様の味方につくのでフィオナと婚約破棄してもらえますか?」
「馬鹿なのか」
さっきの優しい王子は撤回だ。俺がムッとしているとアレンが言った。
「敵が誰かまだ分かっていないんだ。俺が後ろ盾になってやらないとすぐに隙を突かれるぞ。フィオナを人質にされたらお前は何も出来ないだろう」
「返す言葉もございません」
「まぁ、万が一お前が死ねば、フィオナは俺がドロドロに甘やかして大切に優しく愛でてやるから心配するな」
フィオナのヤンデレ具合が強すぎるあまり分からないだけで、アレンも十分ヤンデレの素質はありそうだ。
それにしても乙女ゲームの世界なのに、こんなシリアスな展開になるものなのだろうか。誰かのルートのデッドエンドまっしぐら? それとも続編でも出て新たな展開に?
「それから、おそらくアリスも狙われている」
「アリスも? この間の人攫いですか?」
聞こえていないはずなのに、フィオナが一瞬ビクッと体を震わせたような気がした。安心させるようにフィオナの手を握った。
「あいつらは雇われただけで何も知らなかった。だが、きっと聖属性だからだろうな」
「やはりアリスは聖女ポジ……」
「なんだそれは」
「あ、いえ、こちらの味方につけて闘い方を教えた方が宜しいかと」
「そうだな。まぁ、今日のところはフィオナをゆっくり休ませてやれ」
俺とフィオナは王城を後にした。金色の二つの瞳がじっとこちらを見ていることにも気付かずに……。
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