第41話 真実
一つベッドの中、フィオナは俺の胸に顔を押し付けた。
「フィオナ? 眠れないのか?」
「はい」
フィオナを更に抱き寄せ、髪を梳くように撫でた。暫く撫でていると、フィオナの規則正しい呼吸が聞こえてきた。
「気付いてやれなくてごめん……」
誰かに聞かせる訳でもなく、一人呟いた。
夏祭りの後、俺とフィオナは互いの気持ちを伝え合った。そこで、俺の『好き』とフィオナの『好き』には違いがあることを知った。
そして、俺はフィオナの『好き』を受け入れた。もし、あの時拒んでいたら、フィオナは二度と戻って来ないような気がした。
だからといって、今の状況は致した後の余韻に浸っているわけでは決してない。フィオナの不安が強すぎて俺から離れられないのだ。
――俺とフィオナが帰宅すると、泣き崩れてボロボロのフィオナを見たルイやメイド達は驚きの表情を見せた。けれど、皆何も聞かずに出迎えてくれた。
ただ、フィオナは子供に戻ったかのように、頑なに俺から離れようとしない。いつもなら、ルイが言えば文句を言いながらも素直に聞き入れるのに、今日は文句を言わない代わりにテコでも動かない。
『フィオナ?』
『離れないって、ずっと一緒って約束致しました』
『そうだな』
フィオナの心が癒えるには、しばらく時間がかかるのかもしれない。
『ルイ、しばらくフィオナは俺の部屋で過ごさせる』
『ですが……致し方ありませんね』
本来なら結婚前の尚且つ婚約までしている淑女と二人きりなんてアウトだが、ルイもフィオナの様子がおかしいのは目に見て分かるので反対しなかった。一応、兄妹だし。義だけど。
――と言う訳で今に至るのだが、いつもみたいに発情しないのかって? 出来る訳ないじゃないか。
あれは、フィオナが俺の事を義兄妹として慕っていると思っていたから不埒な妄想をしても自制出来ると信じていた。
だが、今はどうだ。異性として『愛している』と言われたのだ。壊れ物を扱うように接しないとすぐに壊してしまう。それに、こんな精神状態の子を抱くほど落ちぶれてもいない。
今は乙女ゲームのことは忘れて、フィオナが元の元気なフィオナに戻るよう俺に出来る事はなんだってしようと思っている。夏期休暇も半月残っているので、ちょうど良い。
もう一つ重要な何かを忘れているような気がするが……忘れているくらいだから大したことではないのだろう。
◇◇◇◇
可愛い……可愛すぎる!
フィオナの後追いを喜んではいけないのは分かっている。だが、これが喜ばずにいられようか。
「お義兄様、離れちゃ嫌ですわ」
行くとこ行くとこ、俺の服の裾を引っ張りながらついてくる。ちょこちょこついてくるその姿は小動物のようで愛らしい。
「クライヴ様、どうしたものでしょうね……ずっとこれでは学園が始まったら困りますね」
ルイの言う通り、可愛いだけでは生活が成り立たない。精神の問題はしっかり休むことが基本だが、二学期が始まるのは半月後。間に合うかな。
「原因が判明すれば、それを根本から解決すれば治りそうですが」
「原因か、原因は俺みたいだけど……」
昨日、フィオナと話して分かったのは、俺のことが好きだということ。俺がフィオナのそばにいることが心の安らぎになると思っていたが、フィオナを見ていると違う気がする。
「一緒にいても不安そうなんだよな。何か気がかりでもあるのか?」
「……」
フィオナは必要最低限の返事はするが、この話を始めたら一切何も話さなくなる。
「あ、もしかしてアレンのことかな? 婚約は続いているから」
いずれ嫁げば俺とは離れ離れになる。婚約破棄すれば問題解決!?
「それはあるかもしれませんが、それでここまで追い詰められるでしょうか……」
「そうだよな」
でもフィオナは俺が好きなのにどうしてアレンと婚約したんだ? 義兄妹の叶わぬ恋だと思って、新たな恋で上書きする的なあれかな。
確かアレンはヤンデレ設定。フィオナは執着されて抜け出せないのか? フィオナはアレンに事実を告げる事で軟禁や監禁を恐れているのでは……。
「やっぱり直接アレンと話をしよう」
◇◇◇◇
早速アレンと直接話をしようと面会を取り継いでもらい、現在王城に来ている。フィオナには留守番してもらおうと思ったが、やはり俺から離れない。異変に気付いたアレンは即座に問いただしてきた。
「で? フィオナはどうしてそんな事になっている?」
「俺のせいです。それで、アレン様、フィオナの事でお話があるのですが……」
「婚約破棄か」
「え……あ、はい」
アレンは事前に知っていたかのように言い当てた。
「婚約破棄は今はしない。今はな。フィオナとも話がついている。なぁフィオナ」
アレンがフィオナに投げかける。フィオナがコクリと小さく頷いた。どういうことだ?
「将来的には婚約破棄するような言い方ですね」
「俺はフィオナと結婚までしたいと思っている。だが、フィオナは違うからな」
「アレン様は知って……?」
アレンは溜め息を吐きながら呆れた顔で言った。
「はぁ……むしろ知らなかったのはお前だけだ。だから、フィオナのそれと婚約については無関係だろう」
「では、将来的に監禁をお考えだったりは……」
「なんだそれは」
アレンの態度を見ても嘘は言ってなさそうだ。杞憂に過ぎないのだろうか。だが、それならどうして婚約破棄を今しない?
「監禁か……。それも良いかもな。お前ら二人でここにいるか?」
アレンはニヤリと笑った。俺は咄嗟にフィオナを庇う。開けてはいけない扉をこじ開けてしまったかもしれない。
「冗談だ。警戒するな」
「では何故、婚約は継続したままなのですか?」
周囲の空気が一瞬歪んだ。アレンが防音魔法を付与したようだ。
「今のフィオナに聞かせるのは酷だ。フィオナにも聞こえないようにしているから安心しろ」
アレンは表情が一変し、真剣なものとなった。
「そろそろ隠しきれなくなってきた。真実を話す」
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