第28話 使い魔がチートだった

 あれは……アンデッド!? 

 

 魔物はダンジョンの中でしか生きられないはず。何故こんなところに?


 ちなみにダンジョンはデュラハン騒動の後、半年後にようやく再開した。原因は分からず終いだが。


 俺もあの時よりは強くなっている。学園が休みの度にダンジョンに通って、最近俺もBランクまで上がった。だが、相手はあのアンデッドだ。アンデッドって言ったら動く屍。言わばゾンビだ。


 怖すぎる……。俺ホラー系苦手なんだって。どうして俺の前には普通に巨人とか大蛇みたいなのが出てこないんだ!


「先輩、私ここで死ぬのかな……」


 アリスも恐怖でガクガク震えている。デュラハンの時のように助けは来ない。俺がしっかりしないと。


「俺がどうにかするから、アリスは下がってろ」


 俺は剣を構えた。


 アンデッドはざっと数えても十体。その一体を叩き斬った。


 思ったよりあっさり倒れ、これならいけると思い、次々に斬っていった。優勢かと思いきや、最初に斬ったやつから復活していく。


「ひぃー、こいつら不死身か……」


 いや、死んでるんだった。


 更には森の奥の方からぞろぞろとアンデッドが出てきた。ざっと三十体くらいに増えた。


 思い出せ……俺のRPGの知識よ。


 アンデッドは……火や聖属性に弱い。また火か。


 あとは聖属性だが、アリスの方を見るが恐怖で動けそうにない。それに敵の数が多すぎてアリス一人では無理だろう。


 他は……術者! 確かアンデッドを操っている術者がいるはず。そいつを倒せば良いのか。


 だが、どうやって術者を見つけだす? 


 考える暇もなくアンデッドが襲ってきたので、風魔法を放てば、十体くらいが一気に吹き飛んだ。しかし、すぐに起き上がる。キリがない。


「あ、そっちはアリスが!」


 アンデッドの数体がアリスの方に歩き出した。アリスはやはり足がすくんで動けないでいる。アリスの元まで戻るにしても間に合いそうにない。


「くそッ! もう全部凍っちまえよー!!」


 パキパキパキパキ——。


 無我夢中で、一気に氷魔法を辺り一帯に放出するとアンデッドの動きが止まった。


「うそ……本当に凍ったのか?」


 自分でも何が起こったのか分からないが、術者を見つけないことにはアンデッドが再び動き出したり新たな敵がくる可能性がある。


「アリス! 大丈夫か? 俺は術者を探す。お前は洞窟の中に避難していろ。俺が行くまで絶対出てくるな」


「わ、分かりました」


◇◇◇◇


 アリスが洞窟の中に入ったのを確認し、俺は周囲を警戒しながら歩いた。


「こういうのは大抵近くにいて見物しているんだよな……。フィンがいればなぁ」


 フィンはホーンラビット。犬ではないが、鼻が効くらしい。人や物を探すのが得意だ。


 何気なくフィンの名前を呟いたその直後、ポンッと音がした。


「え……フィン?」


 いやいやいや、そんな都合良く現れる訳ないから。きっと切羽詰まって幻を見ているだけだ。そう言い聞かせて、その場を去ろうとすると少女の声が俺を呼び止める。


「ご主人様。呼びましたよね」


 声のする方を見ると白髪に赤目の美少女が立っていた。背丈はフィオナと同じくらいかやや低いくらいだ。


「だれ……?」


「ひどい! ご主人様、私を必要としてくれましたよね!」


 美少女は頬を膨らませて何やら怒っている。他にも誰かいるのかキョロキョロと辺りを見回すが誰もいない。


「ご主人様って……まさか、俺?」


「そうですよ。呼ばれたから出てきたのに」


 美少女のプイッとそっぽを向く姿に何となく見覚えが……。


「フィン……なのか? でも人間」


「そうですよ。でも、ご主人様どこかに行こうとしてるし、擬人化しないと喋れないからこの姿になったんです」


「そんなことが出来たのか」 


 ――後に聞く話だが、一年以上も俺の魔力を吸ったおかげで擬人化も出来るし、俺と同じ魔法も使えるらしい。


 魔物のレベルで言うとS級に匹敵するとか。俺の使い魔、ただのペットかと思ったらチートだった。


「で、何をしたら良いのですか?」


 そうだった! まだ闘いの真っ最中。俺はフィンにお願いした。


「このアンデッドを操っている術者を見つけ出して欲しいんだ。出来るか?」


「おやすい御用です」


 フィンが目を瞑ると、フィンの周りに風が渦巻いた。パッと赤い目を見開き、東の方角を指差した。


「敵は二人、ここから真っ直ぐ五十メートル先の木の上に隠れています」


「サンキュー」


 俺はフィンに礼を言ってからすぐさま敵のいる方へ走った。すると、フィンの言っていた通り、ローブを着た人が二人いた。体格からして男のようだが、フードを深く被っている為、顔は見えない。


「俺達を見つけるとはやるな」


「何が目的なんだ?」


「冥土の土産に教えてやろう」


 男は間を置いて、ニヤリと笑って言った。


「お前を殺すことだよ」


 俺を殺す……だと?


 俺はこの世界ではただのモブだ。善良な国民だ。そんな悪の組織のようなやつに狙われる覚えはない。


 考えていると、周りにある木々の根がうねうねとし始めた。男は土魔法の使い手のようだ。


 根が一斉に鋭い槍のようになり、襲ってきた。


「うわぁぁぁ」


 根の先を斬ったり避けたりしながら、何とか急所は外すことが出来たが、ズタボロ状態だ。


「お、喜べ。そろそろアンデッド達が動けそうだ」


 まじか……。さっきアンデッドを凍らせたので魔力使いすぎて結構ヤバいんだが。


「ゾンビ達が動く前に、お前を倒す!」


「やれるもんならやってみろ」


 俺は素早く相手の懐まで入り込み、剣を振るう。が、男は容易く剣で受け止めた。


 静かな森の中、金属音が何度も響き渡る。


 ここでもう一人の男が土魔法を使ったら俺は確実に死ぬ。


「ちょっと卑怯だが勘弁してくれよ」


 一応、予め謝罪しておく。俺優しいから。


「ぅおッ! 何しやがる、てめぇ」


「勝てば良いんだよ」


 男の足元だけ氷を張ると、バランスを崩して転けた。すかさず剣の柄の部分で思い切り殴り、気絶させた。


 人殺しは流石に出来ない……。


「アンデッドは来なくても、俺の土魔法を避けられるかな」


 もう一人が再び土魔法を使うと、木の根が鋭くなり襲いかかってきた。


「グッ……」


 最後の一本が避けきれず、腹部に刺さった。木の根が抜けた瞬間、血が大量に噴き出た。


 ああ、フィオナ。今度こそもうダメかもしれない……。


「なんだ、どこからの攻撃だ?」


 男が一人で騒ぎだした。


「ご主人様になんてことを……許さない。絶対に」


 フィンが氷晶の混じった風を纏い、髪を逆立てながら俺の前に立った。


「何を、小娘が一人来たところで何も変わらんわ」


 男は俺にしたように木の根をフィンに向けた。


「フィン、危ない!」


 叫ぶが、フィンは動かない。良く見ると、体の周りにある氷晶混じりの風が全てを防いでいる。


「アリスさん、今の間に治療お願いします」


「はい!」


 フィンはアリスを連れてきていた。なんて優秀な使い魔なんだ。帰ったら大好物のニンジンたくさんやるからな。


 先程も味わった治癒魔法を受ける。さすが聖女ポジ、みるみる傷は塞がっていき、痛みもすっかり無くなった。


「ありがとう、アリス」


 頭をポンポンと撫で、お礼を言うとアリスは赤面して俯いてしまった。


「ごめん、つい癖で」


「いえ……」


 先ほどから反応がフィオナに似ていて、ついつい同じことをやってしまう。セクハラで訴えられる前にどうにかしなければ。


 そんなことより、フィンはどうなったのだろうか。俺はすぐさまフィンを探した。


「フィン!? やめろ! それ以上は駄目だ!」


 フィンは氷の刃で男の首を斬ろうとしているところだった。


「どうして? ご主人様を酷い目に遭わせた人なのに」


「お前がこんな奴のために手を汚す必要はない」


 そう言ってみるが、フィンの手は男の首元から離れない。


「フィン? おいで」


 いつものように両手を広げてフィンを待った。フィンは走り。俺の胸にしがみつきながらわんわん泣いた。

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